パート従業員を雇った時に疑問点となることは、パート従業員が残業をした場合、残業代を支払う必要があるかという点でしょう。
残業代を支払う必要がある場合、どのような計算方法で残業代を算出すればよいか、わからない人も少なくありません。
経営者や人事担当者が、定められた法律は守りながら、できるだけ人件費のコストは抑えたいと考えることは当然です。
ここでは、パート従業員の残業代が発生するケースや計算する際の注意点を解説します。パートの勤務シフトを組む際に、残業が発生するケースをうまく避けることで、コストカットへ繋げることができるでしょう。
目次
1.パート従業員にも残業代支給は必要
パート従業員にも残業代の支払いは必要です。一日6時間の契約で雇ったパート従業員が7時間働いた場合、7時間分の時給を支払う必要があることは当然と見なされます。
この雇用者と従業員との間で最初に定めた勤務時間を「所定労働時間」と呼びます。所定労働時間を超えた場合は、時給の支払い義務が発生することは言うまでもありません。
残業を支払う場合、基礎賃金以外に割増料金が必要であるかどうかが、多くの担当者にとって不明な点でしょう。
実は「所定労働時間」を超えただけでは、割増料金は発生しません。割増料金が発生するためには、もう一つ別に定められた条件を満たす必要があります。
次の項目では、割増料金の発生するケースについて見てみましょう。
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2.時間外労働に対する「割増賃金」の支払い義務が発生するケース
労働者を守る法律である労働基準法によって、労働時間の上限は厳格に定められています。その定められた上限時間が「法定労働時間」です。「法定労働時間」を超えた労働時間は「時間外労働」と呼ばれ、「割増料金」の支払い義務が生じます。
「所定労働時間」は、経営者と従業員との間で個々に交わされた契約上の時間であり、「法定労働時間」は国によって定められたもの、という点が両者の大きな違いです。
フレックスタイム制であっても、法定労働時間を超えれば、残業代は発生します。また、変形労働時間制を取り入れている会社でも、月・年単位の期間では残業代の支給は必要です。
具体的に割増料金が発生するケースを見てみましょう。
2-1.1日8時間・1週間40時間超える勤務
労働基準法によって定められた労働時間の上限が「法定労働時間」です。法定労働時間は、1日8時間以内、1週間に40時間以内と定められています。法定労働時間を超えて働いた場合、1時間あたり通常時間給の2割5分以上に相当する割増料金を支払わなければなりません。
また、労働基準法では休憩時間についても決まりがあります。
- 労働時間が6時間以上・・・45分以上の休憩
- 労働時間が8時間以上・・・1時間以上の休憩
以下は、異なる所定労働時間で働くパート従業員が、所定時間を1時間超えて働いた場合を想定した表です。(全員昼の休憩1時間を含む)
所定労働時間 | ||
---|---|---|
パートA | 9時~18時 | 8時間 |
パートB | 9時~17時 | 7時間 |
パートC | 10時~15時 | 4時間 |
実際の勤務時間 | ||
---|---|---|
パートA | 9時~19時 | 9時間 (時間外労働 1時間) |
パートB | 9時~18時 | 8時間 |
パートC | 10時~16時 | 5時間 |
Aのパート従業員は、所定労働時間が法定労働時間と同じ8時間です。このように、所定労働時間が法定労働時間と同じ場合は1時間でも残業をすると、時間外労働の対象となるため、注意が必要です。
2-2.法定休日の勤務
労働基準法では、休日に関しても規制があります。雇用主は従業員に対して、週1日、もしくは4週間あたり4日以上の休日を与えなければならないと定める決まりです。このように法律によって定められた休日のことを「法定休日」と呼びます。
土日が休みとなっている週休2日の会社であれば、2日の休みのうち、一方のみが「法定休日」です。法定休日に勤務すると、通常時給の3割5分以上に相当する割増料金を支給しなければなりません。この割増料金がいわゆる「休日手当」と呼ばれる手当です。ただし法定休日に勤務する場合、残業が発生しても時間外手当を支給する必要はありません。
もう一方は会社が任意に定めた「所定休日(法定外休日)」です。割増料金の扱いが異なるため、注意しましょう。所定休日に勤務した場合には休日手当は必要ありません。所定休日の勤務については、8時間以内は通常の時給、それ以降は時間外手当が必要です。
休日出勤の定義については下記記事もご覧ください。
休日出勤の定義は?法的な決まりや割増賃金の計算
混乱しやすい箇所であるため、割増計算の例を表にまとめます。時給1,000円の時給制で働くパート従業員が、法定休日と所定休日に時間外勤務した場合の給与です。
法定休日 | 所定休日 | |
---|---|---|
勤務時間 | 9時間 | 9時間 |
割増料金 | 休日手当9時間 | 時間外手当1時間 |
時給1,000円の場合 | 1,350円×9=12,150円 | 8,000円+1,250円=9,250円 |
法定休日か所定休日かによって、計算方法が変わることに注意しましょう。
2-3.午後10時以降の勤務
労働基準法では、労働時間と休日に関する規制以外に、時間帯についても規制を設けています。午後10時から翌日午前5時までの時間帯の勤務については深夜業と呼び、「深夜手当」の支給対象です。深夜手当は時間外手当と同じ2割5分以上の割増料金が必要となります。
ここで注意すべきは、深夜手当は、他の手当と重複して支給しなければならない点です。例えば、深夜の勤務時間内に残業をした場合は、時間外手当の支給対象となります。通常、法定休日に日勤で働いた場合、休日手当は支給されますが、残業手当の支給はありません。しかし、深夜手当は休日手当の割増料金と重ねて支払う必要があります。
以下は、時給1,000円のパート従業員が、平日と法定休日の深夜勤務をして、1時間残業をした場合を想定した表です。
平日 19時~翌5時 |
法定休日 19時~翌5時 |
|
---|---|---|
労働時間 | 9時間 | 9時間 |
時間外手当 | 1時間 | – |
休日手当 | – | 9時間 |
深夜手当 | 6時間 | 6時間 |
時給1,000円の場合 | 10,750円 | 13,650円 |
通常3時間3000円+深夜5時間6,250円+深夜時間外1時間1,500円 | 休日3時間4,050円+休日深夜6時間9,600円 |
以下の表は、平日深夜の時間外勤務と、法定休日の深夜勤務の、1時間あたりの割増率です。(基本時給は1,000円とします。)
平日深夜の 時間外勤務 |
法定休日の 深夜勤務 |
|
---|---|---|
手当の内訳 | 時間外手当2割5分以上+深夜手当2割5分以上 | 休日手当3割5分以上+深夜手当2割5分以上 |
合計 | 5割以上 | 6割以上 |
時給1,000円の場合 | 1,500円以上 | 1,600円以上 |
業種や会社によっても休日日数も変わるでしょう。
そもそも従業員の休日出勤を適正に管理できているか?改めて見つめなおしていただくのはいかがでしょうか?
3.【重要】残業代を計算する時の注意点
ここまでは、パート従業員が所定時間を超えて勤務した際に、残業手当の支給が必要なケースについて述べました。では実際に残業手当の金額を計算する際には、どのような点に注意すべきであるかについて解説します。
ここでは、勘違いしやすい勤務時間に関する知識と、残業代を支払わなかった場合に起こり得る事態について見てみましょう。
3-1.「勤務時間」は所定労働時間ではなく「拘束時間」で決まる
残業手当の計算において元となる「労働時間」は、就業規則や最初の契約で決められた所定労働時間ではありません。
例えば、所定労働時間では9時からと定められていたとしても、雇用主が8時30分に出社を求めた場合は、勤務時間を8時30分から計算する必要があります。雇用主の指示による勤務時間が、法定労働時間の8時間を超えた場合は、その分の時間外手当が必要です。
所定労働時間 | |
---|---|
9時~18時 | 8時間 |
実際の勤務時間 | |
---|---|
8時30分~18時 | 8時間30分 |
時間外労働 |
---|
30分 |
3-2.残業代未払いは労働審判・労働訴訟に発展するリスクがある
残業代の未払いをして社員が弁護士等に相談すれば、さまざまなリスクが考えられます。管理監督者に問題があるとして労働基準監督署より注意を受けたらすぐに改善しましょう。
改善の見込みがなく悪質な労働基準法違反であるとされてしまうと、次は労働審判や労働訴訟といった手段に出られる可能性が高まります。企業は、訴訟を起こされたら裁判で戦うしかありません。そうならないためにも、未払いを起こさないよう注意しましょう。
残業手当は、時間外手当など複数の種類があり、場合によっては給与計算が複雑となります。そのため、支払う意思はあっても、計算方法を間違えた結果、未払いを引き起こしてしまうケースも考えられるでしょう。
残業代は、2年前までさかのぼって請求可能です。証拠として、以下のような給与額や労働時間が証明できる書類が提出される可能性あります。
- 給料などの労働条件を記載した雇用契約書
- 勤務日・労働時間がわかるタイムカード・勤怠記録・業務日報
まとめ
パート従業員が最初に取り決めた勤務時間外に仕事をした場合には、その分の時間給を支払わなければなりません。また、労働基準法で法定労働時間は1日8時間以内、1週間に40時間以内と定められており、それを超えると時間外手当を支給する必要があります。
労働基準法で定められた、週に一度(もしくは4週内に4日)以上の休日が「法定休日」です。法定休日にパート従業員が出勤した場合は、休日手当を支給しなければなりません。
22時から翌5時の深夜時間帯における勤務には、深夜手当が必要となります。深夜手当は時間外手当や休日手当と重複して支給する必要があり、計算が複雑となるため、注意しましょう。
残業手当の未払いは2年前までさかのぼることができ、未払いが悪質な場合は訴訟に発展するケースもあります。パート従業員への残業代に関する知識をしっかりと身に付け、未払いを未然に防ぎましょう。
監修:MITERAS部
「ホワイトなはたらき方を実現」する労務管理ツール【MITERAS仕事可視化】の担当者によるコラムです。MITERAS仕事可視化は、社員のPC利用の有無、アプリ使用状況などを可視化。勤怠データとPC稼働ログの突合で、法令遵守・はたらき方の見直しを推進できます。当コラムでは、理想の働き方改革実現のポイントから、日常業務の効率化のご提案まで、人事労務のためのお役立ち情報をご紹介します。
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