人事労務 コラム

IPOを目指すにあたって人事・労務面で気を付けるべき点は?

投稿日:2021年7月8日 更新日:

人事労務

IPOを目指すとなると、経営体制が整っているかを審査されることになります。

様々な面で今までの社内の体制を変更しなければならない場合もあるかとおもいますが、その中でも人事・労務面ではどのような体制を整えるべきなのでしょうか。

本記事では、IPOを目指すにあたって、人事・労務面で気を付けなければならないポイントを紹介します。

1.そもそもIPOとは

IPOは(Initial Public Offering)の頭文字をとったもので、新規株式公開という意味です。企業の株式を初めて証券取引所に上場させることをいい、IPOによって、その企業の株は株式市場に流通することになります。

IPOを行うまで、未上場企業の株式は、オーナーやベンチャーキャピタルなど、限られた人しか持てません。IPOを行うことによって、証券会社に口座を持っている人であれば誰でも、株式市場を通して自由に売買できるようになります。

IPOと似たような言葉に「上場」があり、どちらも「未上場の会社が証券取引所に上場し、投資家が株取引できるようにする」という点は共通しています。しかし、上場が「株式会社が発行済みの株の取引が可能になる」ことも含まれるのに対し、IPOは「新しく公開された株の取引が可能になる」という意味です。
ただし、国内で上場する企業のほとんどは、上場時に新規株を公開します。そのため、IPOと上場の意味はほぼ同じもの考えていいでしょう。

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2.IPOすることのメリット

IPOは、企業にとってひとつのゴールともいえるものです。具体的にIPOにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

2-1.社会的信用が向上する

IPO後はメディアでの露出が増え、企業の知名度上昇が期待できます。広く知られることで消費者が利用する際に安心でき、商品やサービスの売上拡大が見込める点も、IPOのメリットです。
また、上場時の厳しい審査を通過したことや、監査法人による監査を受けることで、社会的信用力の上昇が期待できます。

2-2.資金調達しやすくなる

前述したように、不特定多数の投資家から資金調達できることは、IPOを行う最大のメリットでしょう。自己資本が充実し、企業の成長スピード向上につながります。前述のように企業の社会的信用力が高まることで、金融機関での借入がしやすくなるなど、間接的にも資金調達に有利にはたらくというメリットがあります。

2-3.人材が確保しやすくなる

昨今は少子高齢化から労働力不足が進み、魅力的な給与や待遇を用意しても、なかなか人材が確保できないと悩む企業は多いです。そういった状況で、上場企業として知名度や信頼度が上昇することは、優秀な人材の確保に役立つでしょう。

2-4.従業員のモチベーションがアップする

知名度や信用度の向上で、自社の従業員のモチベーションがアップし、生産性向上や人材の流出防止につながります。「日本企業の0.1%しかない上場企業で働いている」という自負が生まれるほか、企業力が上がって給与アップが見込めるといったメリットも。信用力が高まってローンやカードの審査に通りやすくなる可能性があることも、メリットでしょう。

2-5.社内体制が強化される

IPOの準備のために、内部管理体制(コーポレートガバナンス)が強化されるというメリットもあります。労働環境も整えられるので、従業員がより働きやすくなり、離職率の軽減にもつながります。内部の透明性や平等性が担保され、従業員の定着率が安定している企業は、投資家や金融機関からも支持される傾向にあります。

3.IPOのデメリットはある?

IPOにはさまざまなメリットがありますが、デメリットがないわけではありません。IPOのデメリットはどのようなものでしょうか。

3-1.資金が必要

IPOには資金が必要です。上場前には監査法人や証券会社への支払いがありますし、上場時は上場審査料、新規上場料を支払わなければなりません。上場後は年間上場料、証券会社への成功報酬などの支払いがあり、IPOのコンサルティングを依頼すればその費用がかかることもあります。

3-2.IR活動が負担

IPOの後は、自社の株を保有する株主向けにIR活動を行わなければなりません。IRとはInvestor Relationsの略で、企業が株主や投資家に対し、財務状況など投資の判断に必要な情報を広報する活動です。Webでの情報開示や、ディスクロージャー資料の送付、決算説明会や各種説明会の開催など、その内容は多岐にわたり、IPOによって業務の負担は増加するでしょう。

3-3.買収リスクがある

IPOで株式が公開されたことで、望まない相手に株式を買われる可能性があります。常に買収されるリスクにさらされているともいえるでしょう。積極的な成長投資や株価の維持が重要です。

また、株式を保有している株主には、株主総会での議決権があり、株主総会でM&Aを含む企業再編や、取締役の選任などの重要な決定事項に対して、議決権を行使できます。経営者と株主が対立すれば、株主が決議を否決する、動議が提出されるといったことも考えられるでしょう。

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4.IPOの条件

IPOするためには、上場する証券取引所によって違う基準を満たさなければなりません。条件は大きく「形式要件」「実質要件(実質審査基準)」の2つに分けられます。IPOの条件を紹介します。

4-1.形式要件

形式要件は、純資産額や時価総額といった、数値化できる要件のことです。証券取引所ごとに具体的に数値の基準が決まっており、以下はその一部です。

  ■上場の形式要件

プライム スタンダード グロース
上場時株主数 800人以上 400人以上 150人以上
上場時時価総額 250億円以上 -※
流通株式数 20,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
公募株数 500単位
流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上
経営成績 利益基準または売上基準額 経常利益25億円以上以上(最近2年間)または売上高100億円(最近1年間)かつ上場時価総額1,000億円 経常利益1億円以上以上(最近1年間)
上場時純資産額 50億円 連結純資産額が正
事業継続年数 上場申請日から起算して3年以上前 上場申請日から起算して3年以上前 上場申請日から起算して1年以上前

   ※上場から10年経過後40億円以上(改善期間1年)

 

 

この他にも、さまざまな審査項目があります。

 

4-2.実質要件(実質審査基準)

実質要件(実質審査基準)は形式要件以外の、数値に表せない条件と考えていいでしょう。例えば以下のような項目があります。

  ■形式要件(実質審査基準)

プライム スタンダード グロース
企業の継続性及び収益性 事業計画の合理性
継続的に事業を営み、かつ安定的で優れた収益基盤を有している 継続的に事業を営み、かつ安定的な収益基盤を有している 事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備している、または整備する合理的な見込みがある
事業経営の健全性
事業を公正かつ忠実に遂行している
企業のコーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制の有効性
コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制が適切に整備され、機能している コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制が企業の規模や成熟度などに応じて整備され、適切に機能している
企業内容などの開示の適正性 企業内容・リスク情報などの開示の適正性
企業内容などの開示を適正に行える状況にある 企業内容・リスク情報などの開示を適正に行える状況にある

この他にも、さまざまな審査項目があります。

 

5.IPOで厳しく審査される人事・労務体制

 

IPOの際、以前は財務や税務、法務などが重視されていましたが、最近は人事・労務面も厳しく審査されるようになりました。
グロース市場のIPOの審査項目に、「コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制が企業の規模や成熟度などに応じて整備され、適切に機能している」という条項があります。経営状態が良くなかったり、それを隠蔽していたりする企業に投資すれば、投資家は損をしてしまうかもしれません。投資家を守るため、IPO時には投資対象の企業が健全な運営ができているか、チェックされるのです。

企業が安定して利益を出し、成長していくためには、優秀な人材に継続的に働いてもらう必要があります。そのためには、従業員が働きやすい環境が整っている必要があり、それを図るのが人事・労務の役割でしょう。ここからは、IPOのために人事・労務面で注意すべきポイントを紹介します。

5-1.人事制度が整備されているか

人事制度の整備は、IPOを目指すなら必須です。人材は重要な経営資源であり、人材の定着や育成、評価、待遇に関する仕組みがあるかどうかは、企業の継続した成長に大きく関わるでしょう。

開業から時間が経っているのに就業規則が更新されていない場合、法改正が反映されていなかったり、法定レベルに達していなかったりすることがあります。人事制度は、労働基準法を順守した内容であり、かつ会社で実際に運用されるに足る内容となっていなくてはいけません。
付帯規定についても、しっかりと確認してください。特に、給与規定や育児介護休業規定は、最新の法令に沿っているか注意が必要です。

5-2.労使協定の締結・届出が行われているか

IPOを目指すなら、36協定などの労使協定を整備しておく必要があります。労働基準法では1日及び1週間の労働時間と休日日数を定めており、時間外労働や休日労働をさせる場合は「36協定」を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
また、立替経費分を給与から控除するケースでは、賃金控除に関する協定も整備する必要があります。

規定関係は、労働基準法をはじめとした諸法規があるので、それに沿って整備します。規定されているだけではなく、どう運用されているかもチェックされるので注意しましょう。

5-3.有休休暇は取得できているか

2019年より、企業では年間10日以上の有休休暇がある従業員に対し、5日以上取得させることが義務づけられました。取得させられなかった場合は法令違反になり、もちろんIPOの審査にも影響します。
取得していない従業員の数に応じて罰金を支払う必要もあるため、確実に取得させるよう管理しなければなりません。

5-4.未払い賃金がないか

IPOを目指すにあたって、いくつか労務コンプライアンスに関して問題視されやすい点がありますが、そのひとつに時間外労働の手当の不払いがあります。
残業代を固定にしている企業の場合、実際は時間外労働の時間に応じて割増賃金が支払われるべきなので、オーバーしている分は未払い賃金の扱いになるケースがあります。

未払い賃金は、過去2年分は遡って支払わなければなりません。中には上場審査を受ける段階になって未払い賃金が発覚し、巨額の経費を計上することになって利益を圧迫、上場が延期される…といった場合もあるのです。
隠れて社員がサービス残業をしていた場合でも、企業側には残業代の支払義務があります。従業員の稼働状況を正確に把握し、未払い賃金が発生しないようにしっかり管理してください。

自主的なサービス残業については、以下の記事もご覧ください。
自主的なサービス残業も違法?企業が受ける影響とは
  

5-5.労働保険・社会保険に加入しているか

労働者が適切に社会保険に加入をしているかも、IPOの際に厳しく審査される項目です。特に注意したいのが、パートタイマーやアルバイトの保険加入。1ヵ月以上労働する見込みがあり、条件に当てはまった場合は社会保険の加入対象になりますが、加入させていないケースがあります。この場合、法令に違反したとして、IPOの審査通過ができなくなってしまいます。
非正規労働者であっても勤務時間を正確に把握するとともに、加入手続きの漏れがないよう、確認しましょう。
  

5-6.人事・労務トラブルがないか

何らかの人事労務上のトラブルが生じて訴訟に発展した結果、上場審査に影響します。
直近でトラブルが起こりそうな解雇等がないか、あった場合それは適切な対処だったかなど、細かく確認しておく必要があるでしょう。労働条件が不利益な方向に変更された場合も訴訟になる可能性があり、問題視されます。
  

セクハラやパワハラなどのトラブルの有無も確認が必要です。ハラスメントの防止・対応は従業員の労働環境を守ることはもちろん、企業イメージを保つためにも必ず取り組まなくてはなりません。IPOの際はハラスメントの防止措置がとられているか、発生した場合にどう対応するかもチェックポイントです。
  

5-7.安全管理体制は構築されているか

従業員の安全を守る対策がとれているか、メンタルヘルス対策が実施されているかなど、安全管理体制が構築でているかもIPOで審査されるポイントです。安全管理体制ができていない企業は企業価値が維持できない可能性があるとして、マイナスに評価されるでしょう。
安全配慮義務は法律によっても定められていますから、改めて体制が構築できているかチェックしてください。
  

安全配慮義務については、以下の記事もご覧ください。
安全配慮義務とは?対象範囲や罰則、違反、対策を、実例を交えて解説
  

人事・労務の体制を強固にしてIPOを目指す

IPOのためには、証券取引所の上場基準を満たす必要があり、厳しく審査されます。IPOにおいて人事や労務の重要性は年々増しており、人事・労務上の規定に違反しないよう社内の整備をしておく必要があるでしょう。

IPOに向けて準備をするなら、労務管理は非常に重要です。法令違反があれば審査に通過できませんし、何より従業員が働きやすい環境を整備することが、企業価値の向上につながります。「MITERAS仕事可視化」は、PCログの取得で従業員の勤務状況を見える化できるツールです。IPOを目指すためにも、従業員が安心して働けるよう、管理するためにお役立てください。

監修:MITERAS部

「ホワイトなはたらき方を実現」する労務管理ツール【MITERAS仕事可視化】の担当者によるコラムです。MITERAS仕事可視化は、社員のPC利用の有無、アプリ使用状況などを可視化。勤怠データとPC稼働ログの突合で、法令遵守・はたらき方の見直しを推進できます。当コラムでは、理想の働き方改革実現のポイントから、日常業務の効率化のご提案まで、人事労務のためのお役立ち情報をご紹介します。


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