人事労務 コラム

安全配慮義務とは?対象範囲や罰則、違反、対策を、実例を交えて解説

投稿日:2021年5月13日 更新日:

人事労務

企業には、従業員の安全に配慮する「安全配慮義務」が法律で定められています。その範囲は広く、従業員の労働環境から勤務状況、健康に関することまで配慮しなければなりません。

働き方改革や働き方の多様化によって、安全配慮義務はより重要性を増しています。もしも安全配慮義務に違反した場合、企業に対して罰則が課される場合もあります。ただし、範囲は決まっていても、具体的な対策については企業に任せられている部分が多いのが現状です。

そこで今回は、安全配慮義務の概要と、罰則や具体的な対策について解説します。安全配慮義務のことを理解したい人は参考にしてください。

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1.企業が従業員の安全に配慮するための安全配慮義務

安全配慮義務とは、従業員が安全かつ健康に労働できるようにするため、企業が従業員の安全に配慮する義務のことです。2008年に施行された労働契約法第5条によって明文化されています。
かつては労災によるケガなど肉体的なトラブルの際に、安全配慮義務の違反の有無が問題になっていました。しかし、現在ではパワハラやセクハラなど精神的なトラブルにおいても、安全配慮義務の違反の有無が問われるケースが増えています。

企業は労働災害を防止するため、安全配慮義務を果たして職場環境や労働条件を整備しなければならず、そうすることで従業員が安心して働けるようになります。
もしも労働に関するトラブルや事故が発生した場合、安全配慮義務を怠っていると、企業は多額の損害賠償請求を受ける可能性があります。そうなれば直接的なダメージはもちろん、企業イメージの低下といったリスクも避けられません。

1-1.安全配慮義務の対策

安全配慮義務の対策は、具体的に法律で定められていません。したがって、従業員が安全に働けるようにするためにどのような処置が必要なのかを企業として考え、対策を講じる必要があります。
対策を考える際は、「職場環境配慮義務」と「健康配慮義務」の2つが軸となります。

〇職場環境配慮義務
職場環境配慮義務とは、安全に作業できる労働環境を整えることです。
具体的には、機器のメンテナンスや設備の導入・メンテナンス、従業員に対する機械の操作方法の指示・指導などが挙げられます。

〇健康配慮義務
健康配慮義務とは、従業員の健康面を企業側(使用者側)が管理するという考え方です。ここでいう「健康」は心身の両面を指しており、メンタル面の健康も重要視されています。長時間労働の防止、健康診断の実施のほか、メンタルヘルスのチェックや改善といった対策があります。

1-2.安全配慮義務の対象者

企業の安全配慮義務の対象者は、自社の従業員だけとは限らない点に注意が必要です。自社で働く派遣社員や自社で働く下請け会社の従業員など、直接労働契約を結んでいなくても、同じ環境で働いていれば対象となります。

また、同じ労働環境にいなくても、海外勤務者も安全配慮義務の対象者です。対策内容は同じ環境で働く労働者とは異なり、赴任先の治安や危険性への配慮、赴任前の予防接種、出国・帰国後のメンタルサポートなどを行う必要があります。

2.安全配慮義務に違反するとどうなる?

安全配慮義務違反の罰則について、労働契約法の条文には記載がありません。しかし、実際のところ罰則がないわけではなく、高額な罰金を課されることもあります。
安全配慮義務違反により罰則が課される法的な根拠として、以下の3つの民法があります。

<安全配慮義務違反の法的根拠>

  • 債務不履行(民法415条)
  • 不法行為(民法709条)
  • 使用者責任(民法715条)

これらの根拠によって、労働時に問題が起こった際に安全配慮義務を講じていなければ、事業者が労働者に対して損害賠償などの責任を負うこととなります。

2-1.安全配慮義務違反になるポイント

労働に関する事故やトラブルが起こったとき、何もかも安全配慮義務違反となるわけではありません。では、どのようなことがポイントになるかというと、以下の3点が挙げられます。

〇予見可能性の有無
予見可能性の有無とは、企業や組織が従業員の心身の健康を害すると予測できた可能性のことで、回避や防止の対策がとれたかどうかを指します。もし、従業員が高所で作業するとして、ヘルメットや命綱の準備や着用指示を怠ってケガをすれば、安全配慮義務違反となるでしょう。

〇因果関係の有無
因果関係の有無とは、従業員の傷病に安全配慮義務が関係しているかということです。長時間労働によるうつ病、整備不十分な機械によるケガなどがこれにあたります。こういった病気やケガが企業に起因するものと証明されれば、安全配慮義務違反として損害賠償責任を追う可能性があります。

〇労働者の過失の有無
労働者過失の有無とは、労働時にトラブルがあった際、労働者側に過失があったかどうかということです。労働者側に過失があった場合、労災と認められても安全配慮義務違反とはならない可能性があります。

2-2.安全配慮義務違反になるケース

前述のように、労働に関する事故やトラブルが起きた際、すべてが安全配慮義務違反になるわけではありません。
以下のようなケースにおいて、労働者に健康やメンタルにおけるトラブルが発生した際には安全配慮義務違反となり、罰則を課される可能性が高くなります。

〇過労死ラインを超える時間外労働をさせたケース
過労死ラインとは、以下のいずれかを超える場合にあてはまります。

<過労死ラインの基準>

  • 2~6ヵ月の平均残業時間が80時間
  • 1ヵ月の残業時間が100時間

長時間労働が続けば健康に悪影響を及ぼす危険性が高まるため、違反になるケースがほとんどです。

〇28度以上の環境で労働をさせたケース
職場の平均気温が28℃を超えると、事務所衛生管理基準規則における努力義務の室内環境の基準を超えてしまいます。

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3.安全配慮義務違反の実例

安全配慮義務違反をしないためには、実例を知っておくことも効果的です。ここでは、裁判で企業が安全配慮義務違反であるとされた事例について解説します。

〇新人研修の際の歩行訓練により後遺症が残ってしまったケース
新人研修の際に、ウォーキングや長距離走などを実施すること自体は問題ありません。しかし、従業員の体力・年齢・健康状態などに考慮して実施しない場合は、安全配慮義務違反になることがあります。

安全配慮義務違反とされた実例では、以下のような問題がありました。

<安全配慮義務違反とされた例の問題点>

  • 新人の健康状態や体力、怪我の有無に関係なく一律で過酷なトレーニング(歩行訓練)が課された
  • 研修先での外出が禁止され、病院への受診もできない状況であった
  • 足の痛みにより、従業員が病院での治療を求めたが、拒否された
  • 結果的に、従業員は後遺症の残る怪我をしてしまった

〇長時間残業によって従業員がうつ病を発症してしまったケース
残業時間の把握と対策も非常に重要です。ある企業では、新入社員が平均147時間の時間外労働によりうつ病を発症し、入社した1年5ヶ月後に自殺をしてしまった事件があります。

会社側が残業時間を把握していながら、長時間労働の改善、心身のダメージやストレスのケア、自殺防止策を講じていなかったことが問題となりました。

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4.安全配慮義務を果たすための対策

安全配慮義務を果たすために、企業は具体的にどのような対策を講じればいいのでしょうか。ここでは、4つのポイントについて解説します。

4-1.メンタルヘルス対策を実施する

従業員のメンタルヘルス対策の具体例は以下の通りです。

<従業員のメンタルヘルス対策の具体例>

  • 従業員のストレスチェックの実施(2015年より義務化)
  • メンタルに関する社内相談窓口の設置や社内カウンセラーの配備
  • パワハラ・セクハラ対策
  • メンタルヘルス研修の実施
  • 健康状態や個人的な悩みについての個別面談の実施

従業員のストレス状態について、細やかな対応をすることが求められます。

4-2.安全衛生管理体制を整える

安全衛生管理の具体例は以下の通りです。

<安全衛生管理の具体例>

  • 安全衛生委員会を設置(従業員50人以上の事務所では必須)
  • 機械の操作手順に関する研修の実施
  • 新人や配置転換をした従業員に対する安全衛生研修の実施
  • 定期的な機械のメンテナンス・点検
  • 産業医の配備
  • 健康診断の実施

万が一怪我やトラブルが生じた場合でも、すぐに対処できるような環境・体制を整えておくことが重要です。

4-3.労働時間を管理する

長時間労働を防ぐためには、会社が従業員一人ひとりの労働時間を把握することが不可欠です。具体的な方法として、勤怠管理ソフトや労務管理ソフトを使用し、総労働時間や時間外労働時間の把握があります。

また、長時間労働をさせないための取り組みとしては、業務効率化に加えて企業の制度上の取り組みもポイントとなります。
長時間労働を防ぐための取り組みには、以下のようなことが挙げられるでしょう。

<長時間労働を防ぐ取り組み>

  • 残業を上司の許可・承認制にする
  • 朝型勤務を推奨する
  • 社外の電話対応をせず、作業に集中するための時間を設ける
  • 申請した勤務時間と実際の稼働時間が合致しているかチェックする

4-4.快適な職場環境を整える

円滑に業務を遂行するためには、快適な職場環境を整えることが重要です。職場環境の例として、以下のような項目が挙げられます。

<職場環境の例>

  • 人間関係
  • 事務所内の温度や湿度
  • トイレや休憩室、食堂、給湯室などの設備

また、快適な職場環境を整えるためには、従業員のコンディションを可視化することも重要です。可視化をするためには、クラウドツールの利用が有効となります。

安全配慮義務を果たして働きやすい環境を作ろう

安全配慮義務は、従業員が心身ともに健康で安全に働けるため、どのような企業でも負うべき義務です。
企業が安全配慮義務を怠れば、従業員が安心して働けなくなることはもちろん、高額な損害賠償責任を問われる可能性があります。その場合は企業のイメージや評判に影響することもあるため、しっかりとした対策が必要です。
多様化した人材が快適に仕事に向かえるよう、安全配慮義務についてあらためて考えてみてください。

従業員の稼働状況を把握することも、安全配慮義務として行うべきことです。「MITERAS 仕事可視化」は、従業員のPCログから稼働状況を正確に把握できるツールです。勤務時間や仕事内容を見える化することで、長時間労働を抑制し、業務効率化も目指せるでしょう。

監修:MITERAS部

「ホワイトなはたらき方を実現」する労務管理ツール【MITERAS仕事可視化】の担当者によるコラムです。MITERAS仕事可視化は、社員のPC利用の有無、アプリ使用状況などを可視化。勤怠データとPC稼働ログの突合で、法令遵守・はたらき方の見直しを推進できます。当コラムでは、理想の働き方改革実現のポイントから、日常業務の効率化のご提案まで、人事労務のためのお役立ち情報をご紹介します。


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