人事労務 コラム

労働時間管理は正しくできている?勤怠の正確な把握のポイントとは

投稿日:2021年5月13日 更新日:

人事労務

働き方関連法の施行や改正によって、時間外労働や休日労働の上限規制が導入されたり、労働時間管理が義務づけられたりと、従業員の労働時間を正確に把握することの重要性が増しています。労働時間の正確な把握は、正確な賃金の計算や従業員の長時間労働の抑制、コンプライアンスの遵守など、さまざまな目的があります。

今回は、労働時間を管理することの重要性や対象範囲、管理のポイントなどを解説しましょう。

1.2019年4月より労働時間の把握が義務化

労働安全衛生法の改正で2019年から「企業が従業員の労働時間を客観的に把握しておくこと」が義務づけられました。労働時間の客観的な把握とは、管理職も含めて従業員一人ひとりの労働時間、時間外労働、休日労働の時間を正確に把握することです。
では、労働時間とはどの時間を指すのか、正確に理解できているでしょうか。

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1-1.労働時間は指揮命令下に置かれている時間

労働時間を適切に管理する上で注意したいのは、労働時間は「使用者の指揮命令の下に置かれている時間」を指すということです。

労働時間と似たような言葉に勤務時間がありますが、勤務時間は「就業規則で定められた始業時間から就業時間まで」を指し、休憩時間も勤務時間に含まれます。

それに対して労働時間は、勤務時間から休憩時間を抜いた時間で、労働基準法で定める「法定労働時間」と、企業が就業規則で定める「所定労働時間」があります。企業は法定労働時間を超えない範囲で所定労働時間を設定しなければなりません。

把握しなければならない労働時間は、オフィスや現場にいるあいだに限らず、以下のようにオフィスや現場にいなくとも指揮命令下に置かれている状態であれば、企業は従業員の労働時間を把握する必要があります。

労働時間にあたる例

  • 上司の指示によって作業用の資材を準備していた
  • 営業終了後に清掃を行っていた
  • いつでも出勤できるよう待機を命じられていた
  • 先輩の指示で機材の練習をしていた

 

客観的に見て、会社の指示に従ったものであったり、義務づけられたものであったりする場合は、労働時間内の業務に該当します。

1-2.労働時間と休憩時間はどう違う?

休憩時間は労働時間に含まれず、労働基準法で「労働時間が6時間を超える場合少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間を労働時間の途中に与えること」とされています。
休憩中は従業員が自由に利用できるものであり、「使用者の指揮命令の下に置かれている時間」ではないため、原則として給与は発生せず、仕事をさせることもできません。
やむを得ず休憩時間に仕事をさせた場合、その時間は労働時間となります。例えば、「昼休憩中にオフィスに残って電話番をした」などという場合は、指揮命令の下にある状態と見なされ、労働時間にあたります。

2.労働時間の適正化が必要な背景

労働時間管理が義務づけられたことの背景には、労働時間に関するさまざまな問題がありました。なぜ、適正な労働時間の把握が必要なのか、理由や目的を紹介します。

2-1.残業時間の上限の明確化

労働基準法の改正により、残業時間の上限が明確化され、罰則も設けられました。36協定を締結している場合は月45時間、年360時間まで時間外労働を命じられますが、それを超える場合は特別条項を締結する必要があります。

残業時間の上限の明確化

<原則>
1ヶ月で45時間・1年で360時間を超える時間外労働

<特別条項付き労使協定により時間外労働が可能とされている場合>

  • 1ヶ月100時間以上
  • 1年間で720時間超
  • 時間外労働が月間45時間を超えた月が年間6ヶ月超
  • ※いずれかの条件を超えると、法律違反となる

<罰則>
6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金

 

時間外労働の上限超過を避けるためには、実態とズレのない勤怠管理が必要不可欠です。労働時間の把握を怠ること自体に罰則はありませんが、時間外労働を適切に管理するためには、従業員の労働時間把握が求められます。

2-2.時間を超える残業の割増率引き上げ

2023年4月から、1ヶ月あたりの時間外労働が60時間を超えた場合の割増率が引き上げられ、60時間を超過した分の割増率は50%となりました。既に大企業では50%の割増率が適用されていますが、今回からは中小企業にも適用されます。
これは、長時間労働で心身の健康を害したり、最悪の場合は過労死したりする労働者をなくすため、政府が決断したものです。

これまでどおりに時間外労働をさせていれば、人件費が高騰し、企業経営を圧迫する恐れがあるでしょう。労働時間を適切に管理するとともに、業務の効率化や残業時間削減のための取り組みが求められています。

長時間労働については、こちらの記事もご覧ください。
長時間労働の対策で企業がすべきこととは?原因と問題点を解説

2-3.名ばかり管理職の問題

労働時間の把握が義務化された背景のひとつに、労働基準法が定める「管理監督者」の問題があります。管理監督者は一般の従業員と異なり、労働基準法で定められた休日や休憩、労働時間の制限が適用されません。

一般従業員に対して保証されている労働時間の規制は、次の通りです。

  • 休憩時間を除いた労働時間は、1日8時間
    休憩時間を除いた労働時間は、
    1日8時間(1週間40時間)
  • 休憩時間は、8時間以上の勤務で60分以上
    休憩時間は、
    6時間以上の勤務で45分以上
    8時間以上の勤務で60分以上
  • 休日は、1週間に1日以上
    休日は、1週間に1日以上

管理監督者の労働時間や休憩・休日は、裁量労働制により個人の判断で決定できます。業務内容に合わせてスケジュール管理ができる反面、労働時間を把握するための根拠が曖昧となるデメリットがあります。

こういった曖昧さを悪用したのが、「名ばかり管理職」です。名ばかり管理職とは、一般従業員と同様の業務を長時間行わせるために、名目上の役職を与えられた、労働基準法の管理監督者に該当しない従業員のことを指します。
管理監督者は割増賃金が発生しないため、人件費削減を目的に役職名のついた従業員が長時間労働を強いられた例も少なくありません。名ばかり管理職の問題を防ぐために、2019年4月施行の「働き方改革関連法案」で労働時間の適正化が進められています。

2-4.ワークライフバランスの改善

労働時間の正確な管理には、従業員のワークライフバランスを整えるという目的もあります。
近年は価値観が多様化し、より柔軟な働き方ができる企業に人気が集まるようになりました。長時間労働が横行しているような企業に、優秀な人材は集まりにくく、社会的にも評価されにくいでしょう。

そのため、企業ではワークライフバランスの改善に向けた取り組みが必要とされています。採用力強化や既存従業員の離職防止、従業員の業務負担の軽減のためには、残業時間の削減が不可欠で、その第一歩として労働時間の正確な把握があります。

ワークライフバランスについては、下記の記事もご覧ください。
ワークライフバランスとは?今だから知りたい意義と取り組み

3.労働時間を管理する対象範囲

「従業員数が少ないからうちは労働時間の把握は必要ない」などと誤解されることがありますが、労働時間の把握が義務化されているのは、大企業のみではありません。中小企業や個人事業主も、一人でも従業員を雇っている場合は、労働時間の把握と適切な勤怠管理を行う必要があります。

労働時間把握の義務化対象となる従業員も、正社員に限定されず、パートやアルバイトなど非正規労働者も、すべての従業員が労働時間を把握される対象です。ここでの「従業員」は、役員を除く従業員を指しており、会社法で役員は取締役・会計参与・監査役のみを指し、執行役員・理事・監査役などは従業員です。
そのため、経営側に立つことの多い管理職など裁量労働制の適用者なども含めて、労働時間を管理しなければなりません。

職人など一部の業界・職種では弟子を取る制度がありますが、事業に労働力を提供して賃金を受け取っている場合は、労働時間を把握すべき従業員と見なされます。雇用形態・勤務時間・勤続期間・役職に関係なく、労働者すべてが義務化の対象です。

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4.労働時間管理を行う項目

労働基準法では、労働時間管理の項目についての規定はありませんが、厚生労働省のガイドラインには「使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること」とされています。そのため、労働時間管理をすべき項目は以下となるでしょう。

4-1.始業・終了時刻、労働時間、休憩時間

労働時間を正確に把握するために、始業と就業の時間、労働時間、休憩時間を把握する必要があります。「15分超過から残業代が発生する」などという企業もありますが、原則として賃金算定のため、始業・終業は1分単位で管理しなければなりません。

4-2.時間外労働時間、深夜労働時間、休日労働時間

時間外労働や深夜残業、休日出勤には、割増賃金を支払う必要があります。そのため、時間外労働時間、深夜労働時間、休日労働時間も正確に把握しなければなりません。また、それぞれ異なる割増率が適用されることに注意が必要です。

4-3.出勤日、欠勤日、休日出勤日

正確な給与計算のためにも、従業員の健康管理のためにも、休日が取得できているか、休日出勤があった際には振替休日や代休を取得しているかなどは、適切に管理してください。

4-4.有給取得日数・残日数

労働基準法が改正され、2019年4月から有休休暇の取得が義務化されました。取得状況を管理簿で管理し、年に10日以上の有休休暇を付与されている労働者には、必ず5日取得させなければなりません。守れなければ、従業員1人につき30万円以下の罰金が企業に科されます。

休日出勤の定義については下記記事もご覧ください。
休日出勤の定義は?法的な決まりや割増賃金の計算

休日出勤の考え方まとめ

業種や会社によっても休日日数も変わるでしょう。
そもそも従業員の休日出勤を適正に管理できているか?改めて見つめなおしていただくのはいかがでしょうか?

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5.企業が労働時間管理で企業が行うべきこと

労働時間の適正化は、健全な職場環境作りに欠かせません。しかし、具体的にどのように労働時間を管理すべきかわからないという経営者や労務担当者もいるでしょう。
労働時間管理の義務化の際、厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を発表しました。それを参考に、企業がすべきことを見てみましょう。

5-1.始業・終業時刻の確認・記録

労働時間の把握のため、始業と就業の時間を記録しなければなりません。勤怠管理の方法はさまざまですが、従業員からの自己申告のみで管理している場合、正確性や客観性が保てず、企業(使用者)が適切に労働時間を把握していないとみなされる可能性があります。そのため、厚生労働省はタイムカードやPCの使用時間など、客観的かつ個人では容易に書き換えられない方法での記録を推奨しています。
裁量労働制により自己申告で済ませていた企業は、客観的なデータで労働時間の把握が行えるように、システムや環境を整える必要があるでしょう。

何らかの都合によって、従業員の自己申告にせざるを得ない場合は、労働時間管理が必要な理由を従業員に十分に説明した上で、実態と申告が乖離していないか確認しなければなりません。また、必要に応じて労使協議組織を活用し、労働時間管理の問題点や解決策について検討することが望まれます。

客観的記録の方法については、こちらの記事もご覧ください。
客観的記録の方法とは?働き方改革で労働時間の管理が必須に!

5-2.労働時間の記録に関する書類の保存

賃金台帳は法律によって作成が義務づけられている書類で、これをしっかり整えることも、ガイドラインに記されています。労働時間や賃金をただ記録すればいいというものではなく、賃金台帳に記載しなければならないのは以下の10項目です。

賃金台帳に記載すべき項目

  • 氏名
  • 性別
  • 賃金計算期間
  • 労働日数
  • 労働時間数
  • 休日労働時間数
  • 早出労働時間数
  • 深夜労働時間数
  • 基本給・手当の種類とその額
  • 控除項目とその額

 

また、賃金台帳のほかに、労働者名簿と出勤簿の作成も義務づけられています。これらは「法定三帳簿」と呼ばれ、正確な記録とともに起算日から5年間保存しなければなりません。なお、保存の起算日は、賃金台帳は「最後に書き入れた日」、労働者名簿は「労働者の退職、解雇、死亡の日」、出勤簿は「労働者が最後に出勤した日」となっています。起算日の違いに注意してください。

法定三帳簿に正確に記録していなかったり、故意に書き換えたり、保存しなかったりした場合は、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

5-3.労働時間を把握するためのルール整備をする

労働時間の把握で必要となるものは、「明確な労働時間の定義」です。どのような状況を労働時間と見なすのか、改めて職場のルール整備を行うことをおすすめします。

始業/就業時間の定義の例

  • パソコンの電源をオン/オフにした時
  • 職場へ入室/退室する時
  • 更衣室へ入室/退室する時

 

上記のように、明確な始業時間/終業時間を定義します。始業時間/終業時間の定義次第で、導入すべきタイムカードの仕様が異なるため、業務の実情に合わせた明確な定義を設けましょう。

既にタイムカードを使用している職場も、改めて打刻のタイミングやルールを見直すことで、正確な労働時間の把握に繋がります。加えて、従業員に対する聞き取り調査や面接指導による、現状の問題点把握と意識改革も必要です。

 

6.正確な労働時間管理には管理ツールの導入を

労働時間を正確に管理するためには、管理ツールの導入が効果的です。近年はインターネット環境があればどこでも出退勤記録ができるクラウド型の管理ツールも多く、客観的かつ正確な労働時間の管理が可能です。

管理ツールはさまざまな種類があり、例えば、入退室時刻を労働時間の指標とする場合は、ドアに専用のシステムを導入する方法があります。従業員に配布したIDカードで入退室することで、自動的に労働時間(入退室時間)を記録でき、打刻漏れを防ぐことが可能です。
タイムカードを利用する場合は、管理番号を打刻する方法の他に指紋や顔で認証するシステムなど、職場環境や社内ルールに合ったものを選びましょう。設備に予算をかけられない中小企業や個人事業主の場合は、無料もしくは安価で利用できる簡易的なアプリ・システムの導入がおすすめです。

管理ツールを利用することで、客観的な労働時間の記録ができ、法定三帳簿の保存もデータ化されることで場所や手間をとりません。データの集計から反映までを自動化できるため、労務管理者の負担を軽減でき、ペーパーレスへの対応やテレワーク時の対応も容易になるでしょう。

労働時間管理で従業員の心身の安全を図ろう

労働時間管理は企業規模に関係なく、従業員が一人でもいる場合は義務づけられているものです。時間外労働の上限明確化や、時間外手当の割増率の引き上げなど、長時間労働を改善しようとする動きが年々高まっています。36協定や特別条項を無視するような、コンプライアンス違反を犯した企業に対する視線も厳しくなりました。従業員の心身の安全を守るためにも、正確な労働時間の管理は必要なことです。

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監修:MITERAS部

「ホワイトなはたらき方を実現」する労務管理ツール【MITERAS仕事可視化】の担当者によるコラムです。MITERAS仕事可視化は、社員のPC利用の有無、アプリ使用状況などを可視化。勤怠データとPC稼働ログの突合で、法令遵守・はたらき方の見直しを推進できます。当コラムでは、理想の働き方改革実現のポイントから、日常業務の効率化のご提案まで、人事労務のためのお役立ち情報をご紹介します。

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