会社が従業員を雇用する際には、労働条件通知書の交付が必要となります。しかし、法令により定められた記載事項は、労働者の就業形態によって違いがあり、かなり複雑なものとなっています。
また、派遣スタッフなど正社員でない雇用者に対して、労働条件通知書は必要なのか、疑問を抱く経営者や人事担当者の方もいるでしょう。
そこで今回は、派遣も労働条件通知書は必要なのかという点から、労働条件通知書を作成する際のポイントまでを詳しく解説します。
目次
1.派遣労働者にも必要?労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、労働者と労働契約を締結する際に交付する書類のことで、労働者への交付が必要な書類です。
労働条件通知書には、以下のような労働条件を記載します。
- 契約期間
- 賃金
- 業務内容
- 就業場所
- 就業時間
- 休日、休暇
- 退職
労働条件通知書に記載しなければならない契約内容は、法令によって定められています。そのため、労働条件通知書は、会社・雇用者の両者にとって重要な書類といえるでしょう。
1-1.労働条件の明示義務
労働基準法施行規則などにより、使用者が雇用者に明示しなければならない労働条件事項は定められており、その事項を整理したものが労働条件通知書となります。そのため、労働条件の事項が明示されている労働条件通知書は、原則として作成・交付する義務があります。
「原則」ということから、明示しなければならない事項が記載されたものであれば、労働条件通知書でなくても問題はありません。ただし、就業形態などによって異なりますが、以下のような場合は、労働条件で最低限明示しなければならない事項が決まっています。
■雇用契約の期間
雇用契約の期間に定めがあるか、また定めがある場合には、その期間を記載します。基本的に正社員であれば雇用契約の期間はありませんが、契約社員やパートタイマー、派遣などは、期間の定めがあるため、必ず記載しましょう。
■勤務場所や業務内容
労働者が実際に勤務する場所や、職種・業務内容について記載します。
■勤務・休憩時間・休日関係
労働の始業・終業時間や休憩時間、休日の曜日・日数、休暇の有無や時期、シフト制なのかといった点について明記します。
■賃金関係
労働に対して支払う給料の金額や計算方法(時給・日給・月給)や、支払時期、支払い方法について記載します。
■退職関係
退職の申し出方法や、退職を申し出る時期、解雇となる事由など、労働者の退職に関して記載します。
労働条件で最低限明示しなければならない事項の明示を怠った場合、以下のようなペナルティが発生します。
- 全労働者に共通の事項の明示がなかった場合
- 短時間労働者に対しての明示がなかった場合
労働条件で最低限明示しなければならない事項の記載を怠り、ペナルティが発生した場合、企業側に30万円以下の罰金が科せられます。
1-2.FAXやSNSなどでも明示可能
これまでは雇用者への労働条件の明示方法は、書面での交付に限られていました。しかし、2019年4月1日に行われた法改正により、雇用者が希望した場合は、FAXや電子メール、SNSなどの電子化での明示も可能となりました。
これまでの明示方法では、以下の事項について、雇用者へ書面の交付によって明示しなければなりませんでした。
- 契約期間
- 有期労働契約の更新の基準
- 就業場所・業務内容
- 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日など
- 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切・支払時期、昇給に関する内容
- 退職(解雇も含む)に関する内容
- その他
2019年4月1日以降も、雇用者へ明示しなければならない事項に関しては変更はありません。契約期間から退職までの事項は、原則として書面の交付が必要となります。
ただし、雇用者が希望した場合は、以下のような方法での明示が可能です。
- FAX
- 電子メール
- SNS
雇用者が希望した場合、上記の方法で労働条件を明示することができます。ただし、第三者に閲覧させることを目的とした、雇用者のブログや個人のホームページへの書き込みによる明示は認められていないため、気を付けてください。
労働条件を明示する際には、次のような注意点があります。
- 明示する契約内容を事実とは異なるものにしない
- 雇用者が本当に電子化による明示を希望したか確認する
- 雇用者のもとへ到達したか確認する
- なるべく電子化データを出力して書類を保存しておくように雇用者へ伝える
労働条件の明示を怠ったり、雇用者が希望していないにも関わらず、電子メールなどのみで明示したりした場合には、労働基準関係法令の違反となるため、注意しましょう。
2.派遣労働者の労働条件通知書について
派遣労働者は、雇用関係と指揮命令関係が分かれており、派遣労働者・派遣会社・派遣先の三者で成り立っています。そのため、賃金や業務内容に関するトラブルが起こりやすいです。
しかし、労働条件通知書を交付することで、賃金や業務内容に関するトラブルが起こる可能性を抑えることができます。
2-1.労働派遣法に基づいた就業条件明示書
就業条件明示書とは、登録している派遣労働者に対して派遣会社が発行する書類で、就業条件を明示したものです。
就業条件明示書に主に記載すべき契約内容は、次のようなものが挙げられます。
- 業務内容
- 仕事を行う事業所の名称及び所在地、組織単位
- 就業中の指揮命令者に関する事項
- 派遣の期間、就業日
- 始業・終業時間、休憩時間
- 派遣労働者からの苦情処理に関する事項
- 派遣労働者の個人単位の期間制限に抵触する最初の日
- 派遣先の事業所単位の期間制限に抵触する最初の日
抵触する最初の日とは、派遣の契約期間が切れた翌日のことを指します。
記載すべき契約内容は、労働条件通知書と似ている事項もありますが、労働条件通知書と就業条件明示書は別物です。労働条件通知書は労働基準法に基づいて作成する書類で、就業条件明示書は労働派遣法に基づいて作成する書類となっています。そのため、それぞれの書類を作成し、交付する必要があります。
しかし、前述した通り、労働条件通知書と就業条件明示書には、記載すべき事項に似通った内容があるため、派遣会社によっては、「労働条件通知書(兼)就業明示書」として交付しているところも少なくありません。
3.派遣労働者用の労働条件通知書作成時のポイント
派遣労働者向けの労働条件通知書の作成の際には、以下のようなポイントを抑えておく必要があります。
- トラブルが起きやすいため作成は慎重に行う
- 署名・捺印をしてもらった原本はきちんと保管する
前述した通り、派遣労働者は複雑な雇用形態となっているため、賃金や業務内容などに関するトラブルが起きやすいです。そのため、労働条件通知書を作成する際には、細かい部分までチェックして慎重に行う必要があります。
基本的に、労働条件通知書は、派遣労働者に対して交付しておけば問題はありません。しかし、何かトラブルが起こった際に、「そのような書類はもらっていない」などと言い出された場合には、対処しきれません。そのため、署名・捺印をしてもらった原本は会社で保管しておき、トラブルが起きても対応できるようにしておきましょう。
また、労働条件通知書を作成する際は、最低限明示することに加えて、派遣労働者にのみ明示しなければならない事項が2つあります。
- 派遣労働者本人の派遣料金額
- 派遣労働者が所属する事業所における派遣料金の平均額
上記の2つは、書面だけでなく、電子メールやFAXでの明示も可能です。
まとめ
今回は、派遣労働者に交付する労働条件通知書について詳しく紹介しました。
派遣労働者の雇用関係は複雑であるため、労働条件通知書について理解していないまま書類作成を進め交付してしまうと、派遣労働者とのトラブルにつながってしまいます。トラブルを回避するためにも、最低限明示しなければならない事項を押さえたうえで、労働条件通知書を作成をすることが重要です。
また、労働条件通知書を作成する際には、いくつかの注意点があります。派遣労働者との関係を良好に保つためにも、当記事を参考に、慎重に労働条件通知書を作成しましょう。
