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退職代行を使われたら?会社としてとるべき対応を解説

人事労務

「従業員が退職代行を使った」という会社は、意外と多いようです。従業員本人からの申し出ではなく、退職代行を使うところに少々難しい問題が見え隠れしていますが、会社側が対応を間違えると、法にふれる場合もあります。
ここでは、退職代行の3つの形態や主な注意点のほか、会社としてとるべき正しい対応方法について解説します。

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1.退職代行とは?

退職代行とは、従業員本人に代わって勤務先に退職の意向を伝えるサービスです。「わざわざお金をかけて退職代行をしてもらう意味があるの?」と考える人は多いと思われますが、みずから退職の意向を会社に伝えにくい状況にある人は少なくありません。

例えば、職場の雰囲気が悪く、退職をなかなか言い出せなかったり、退職を口にするたびに、上司に引き止められたりするなど、さまざまな理由で会社に行くこと自体が大きなストレスになっている人もいます。このような人たちに、退職代行サービスは利用されています。

2.退職代行の3つの形態

退職代行を行っているのは、「弁護士事務所」「退職代行ユニオン」「民間の退職代行サービス」に分けられ、その形態によって会社がどう対応をすべきかが異なります。まずは、退職代行の3つの形態について知っておきましょう。

2-1.弁護士事務所

弁護士事務所は、さまざまな理由によって会社側との平穏な交渉ができなかったり、会社に行きたくなかったりする人の依頼を受けて、日程の調整や引き継ぎなどの交渉や調整を行います。
なお、こうした交渉や調整は、弁護士資格を持つ者にのみ許されている行為です。

2-2.退職代行ユニオン

退職代行ユニオンは、企業規模が小さく社内に労働組合がない場合、労働者が加入できる外部の労働組合です。正社員でも非正規社員でも、雇用形態にかかわらず加入できるというメリットがあります。
退職代行ユニオンは会社に対する団体交渉権が認められているため、退職日の調整や未払い賃金の支払い請求などの直接交渉が可能です。しかし、その交渉の過程で決着がつかず、裁判にもつれ込んだ場合には、弁護士のように代理人として動くことはできません。

2-3.民間の退職代行サービス

民間の退職代行サービスは、事業のひとつとして退職代行を提供している民間企業です。
民間の退職代行サービスにできることは、「本人に代わって、会社に退職届を提出する」ことだけ。弁護士事務所や退職代行ユニオンとは異なり、依頼者の代弁者として会社との交渉にあたることはできません。

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3.退職代行を使われた場合の会社側が対応すべき6つのステップ

ある日突然、会社に退職代行からの電話が入り「御社の◯◯氏の退職のご意向をお伝えいたします」と一方的に告げられたら、現場の上司や同僚、さらに人事部の面々は、かなり驚くことでしょう。

退職するのは仕方ないとしても、業務の引き継ぎや最終的な進捗の確認をする必要があるほか、PCや業務用のスマートフォン、制服などの貸与品は返却してもらう必要があります。また、退職者本人とともに書類を整える社会保険や税金など、人事上の手続きも必要です。ですから、退職代行からの電話一本で「はい、そうですか」というわけにはいきません。

実際にこのようなことが起こった場合、会社側はどのように対応すれば良いのでしょうか。順を追ってご紹介します。

3-1.退職代行の身元を確認する

前述したように、退職代行には3つの形態があります。どの退職代行からの連絡かによって、対応の仕方も違ってくるのです。そのため、退職代行からの連絡が来た場合、まず退職代行の身元を確認し、3つの形態のいずれにあてはまるのかを明らかにしましょう。

退職代行は多くの場合、会社に対して電話でコンタクトをしてきますが、電話口からは相手の素性を正確に知ることができません。また、弁護士事務所や退職代行ユニオンのほかに、業者をかたった詐欺や嫌がらせの可能性もゼロではないのです。

そのため、弁護士事務所や退職代行ユニオンからの電話であれば、名称や氏名を聞き、その存在を確かめ、あらためてこちらから電話をするといった確認作業が必要になります。
また、弁護士を名乗っているのなら正規の弁護士か、退職代行ユニオンなら、労働組合法における定義を満たした組織かを確認します。その上で、適切な対応をとることが重要です。

弁護士事務所や退職代行ユニオンの場合

弁護士は、依頼者に代わって各種の手続きや交渉を行う権利を持っています。つまり、弁護士は依頼者本人と同等の立場であり、正規の弁護士が業務として退職代行を行ったのであれば、それは従業員本人からの退職の意思表示です。そのため、会社側が「退職を認めない」などと反発したり、交渉を拒否したりすると、民法上の不法行為にあたる可能性があるため注意しなければいけません。
弁護士が退職代行を行う場合、基本的には退職を決定事項として、退職日の調整など必要な作業に入りましょう。なお、退職代行が退職代行ユニオンである場合も同様に、退職に必要な作業に入ります。

民間の退職代行サービスの場合

民間の退職代行サービスは、弁護士のような代弁行為はできず、退職代行ユニオンのような団体交渉権も持っていません。そのため、会社に「依頼者の退職意向」を伝えることしかできず、依頼者の代理人としての要求や交渉を行うことは「非弁行為」にあたり、違法です。よって、民間の退職代行サービスからの要求に対しては、会社側は拒否することができます。
ですが、民間の退職代行サービスを使っている時点で、依頼者との円滑な交渉を行うことは難しいため、強硬に拒絶するよりも、依頼者との橋渡し役と捉えて、円満退職に向けて行動するのが得策といえるでしょう。

3-2.従業員の本人確認を実施する

退職代行とのやりとりを進めるのと同時に、従業員本人の意思確認も実施しておきます。非常にまれなことですが、第三者が嫌がらせの目的で退職代行を使っている場合が考えられるからです。
もちろん、退職代行を使っている時点で、従業員本人が電話やメールでの確認に応じてくれる期待感は薄いです。それでも可能性はゼロではないので、まずはこの方法を試しましょう。

また、退職代行がどのような形態であっても、退職代行の依頼を受ける際には、必ず委任状や従業員本人の身分証明書のコピーを作っているはずです。退職代行にそれらの書類について提示を求めれば、従業員本人からの依頼かどうか確認することができます。

3-3.従業員本人の雇用形態を確認する

従業員には、退職をする権利があります。よって、従業員からの申し出に対して、会社が正当な理由なく退職を拒否することはできないと、民法第627条の条文で定められています。

<民法第627条>

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

ここで注意が必要なのは、条文中の「当事者が雇用の期間を定めなかったときは」という条件です。条文によれば、会社と従業員という一般的な雇用形態であれば、従業員はいつでも退職の申し入れができ、その2週間後には雇用関係が終了します。しかし、雇用期間があらかじめ決められている場合は、契約期間が満了するまでは退職できません。
同時に、この条文に続く民法第628条では、有期雇用契約であっても「やむを得ない事由があるときは、直ちに契約の解除をすることができる」と規定されています。

そのため、退職代行からの申し入れがあった場合、従業員本人の雇用形態を確認し、有期契約であれば期間満了まで退職できないことを伝え、同時に上司からのパワハラなど「やむを得ない事由」があったかどうかを確認する必要があるのです。

3-4.退職届の提出を依頼する

手続き上、書面による退職届は必要なため、退職代行から退職届が送られてきた場合には、内容に漏れがないか、確認してください。書式に不備があるようなら、再度作成して郵送してもらいます。
また、退職届の書式が会社で決められているのであれば、あらためてフォーマットを送り、返送してもらうといいでしょう。

3-5.貸与品の返却を依頼する

仕事用のPCやスマートフォン、制服などの貸与品があれば、その返却を従業員へ依頼します。
従業員本人が会社まで届けに来ることは期待できないため、宅配便などを手配して返送してもらいましょう。

3-6.退職届を受理する

退職届が会社へ届き次第受理し、退職の手続きを進めます。書類上の不備などで従業員本人に連絡する必要がある場合は、直接、あるいは退職代行を通じて連絡をとり、必要事項を確認しましょう。
社内での退職手続きが完了次第、従業員本人に伝えます。なお、メールでの連絡でも良いですが、それと併せて従業員本人に書面を郵送しておけば確実です。

4.退職代行を使われた場合の注意点

退職代行を使われた場合、会社側で注意すべき点がいくつかあります。ここで対応を間違えてしまうと、法にふれることになったり、後々のトラブルにつながったりする可能性があるため、くれぐれも注意が必要です。

4-1.民間の退職代行サービスとは交渉しない

民間の退職代行サービスは、弁護士のような代弁行為を行うと、違法になります。これは、退職代行側が罪に問われることではありますが、非弁行為によって行われた退職の手続きが無効になる可能性があります。この場合、あらためて従業員本人、あるいは弁護士などを通じて退職手続きをとらなくてはならず、会社側としては手間が増えるばかりです。

そのため、弁護士事務所や退職代行ユニオン以外の退職代行が交渉を持ちかけてきた場合には、それが非弁行為であることを伝え、従業員本人のみと交渉することを伝えておきましょう。それでもなお交渉を迫る場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

4-2.有給休暇を消化させる

退職代行を使われた場合、従業員本人の勤務状況をチェックし、有給休暇が残っている場合は消化させる必要があります。
有給休暇の消化を無視すると労働基準法違反となり、会社側がその非を責められることになるため、必ず有給休暇を消化させなくてはなりません。

4-3.退職手続きをすみやかに進める

退職代行を使うということは、従業員本人にはすでに会社に対するポジティブな感情はないと考えられます。よって、退職を拒んだり引き止めたりしても復帰の見込みは少なく、仮に復帰したとしてもモチベーションが下がった状態では、良いパフォーマンスは期待できません。また、SNSなどで会社のネガティブイメージを拡散される可能性もあります。
そのため、本人の復帰を考えるよりも、退職への手続きを粛々と、かつすみやかに進めましょう。

5.退職代行を使われないために会社側がすべきこと

退職代行による従業員の退職の申し入れは、会社側にとってショッキングな出来事でしょう。「直接相談してくれればいいのに」という思いが現場には残り、特に直属の上司にとっては自分の至らなさを痛感してしまうかもしれません。

しかし、こうした結果を迎えたのにはそれだけの理由があるはずです。過ぎてしまったことを覆すことはできませんが、過去を教訓として未来に備えることはできます。退職代行を使われることがないように会社側で何ができるのか、検討・対策することが大切です。

5-1.従業員と円満な関係を築く

従業員としての進退を自分で申告せず、退職代行を使ったということは、従業員と会社とのあいだに、円満な関係を築けていないことがうかがえます。
退職した従業員だけでなく、その部門全体、あるいは全社的にそうした傾向があるとしたら、早急に解決を図るべきでしょう。従業員と円満な関係を築けていなければ、従業員のモチベーションを下げることになり、パフォーマンスの低下にもつながります。

上司と部下の接し方や職場の雰囲気などをあらためて見直し、「円満な関係を構築できているか」「信頼関係をより強めるにはどうすべきか」を再検討する必要があります。従業員が悩みや不安を安心して相談できる窓口を設けるなどの仕組みづくりも大切です。

5-2.なぜ退職代行を使われたのかを考える

前項とも関係しますが、従業員がなぜ退職代行を使ったのかを根本的に考える必要があります。会社に直接言い出せない何らかの事情があったはずで、それが何かを探り、対策を講じるのです。
退職代行を使った理由として考えられる主な事情は次のとおりですが、これ以外にもあるかもしれません。再発防止のためにも現場の環境や人間関係を詳しく調べて、検証してみましょう。

退職を言い出しにくい環境だった

慢性的な人手不足や長時間労働、日常的なハラスメントの横行などで、従業員が「辞めたいけど、辞められない」という心理状態に追い詰められてしまった可能性があります。こうなると、退職の意向について相談することすらできなくなるため、この場合、人員配置や労働環境の見直しが必要です。

上司や人事担当からの強い引き止めがあった

従業員が手掛ける業務の属人性が高く、ほかのスタッフではなかなか代替できない場合に、上司や人事担当からの強い引き止めが起こります。しかし、人員配置は会社の責任で行うもので「ほかにできる人がいないから」というのは、引き止めの正当な理由にはあたりません。それを許したら、従業員はいつまでも退職できなくなるほか、無理強いすれば「在職強要」という違法行為になります。
業務をマニュアル化したり、ほかの人員を配置したりして、会社側が解決するのが正しい行いでしょう。

職場の人間関係に問題があった

従業員が退職代行を使った背景には、職場の上司、あるいは同僚との人間関係に問題があり、自分自身から言い出せなかったという事情があったのかもしれません。
人間関係はなかなか厄介で、一方は特に問題を感じていなくても、もう一方は大きなストレスを抱え、接するだけでも気が重いという状態まで追い込まれてしまうこともあります。そのため、心身に不調をきたし、自分から退職を言い出すことができなくなってしまうケースは、十分ありうることです。

有給や未払い賃金を請求する必要があった

退職する従業員に、消化していない有給休暇や未払いの賃金があり、会社に要求・交渉しにくい場合、弁護士に依頼するケースはこれまで紹介した3つの事情とは対応が異なります。こうした理由で退職代行を使われたのであれば、有給休暇と未払い賃金の解決を図る必要があるでしょう。
有給休暇は労働者の正当な権利ですが、職場の状況によっては「なかなか取りにくい」雰囲気になりがちなので、そうした雰囲気にしないようにするほか、残業や休日出勤の加算分がきちんと給与に反映されているか、あらためて検証することも必要かもしれません。

本人の意向を尊重して、退職代行は早期の解決を図ろう

従業員本人ではなく、退職代行から退職の意向を伝えられると、会社側は裏切られたような気持ちになるかもしれません。しかし、その裏には、そうせざるをえなかった理由がある可能性もあるでしょう。突然退職を言い渡されて焦ることのないよう、普段から従業員がどのような状態にあるのか気に掛け、適切な対応をとることが重要です。

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監修:MITERAS部

「ホワイトなはたらき方を実現」する労務管理ツール【MITERAS仕事可視化】の担当者によるコラムです。MITERAS仕事可視化は、社員のPC利用の有無、アプリ使用状況などを可視化。勤怠データとPC稼働ログの突合で、法令遵守・はたらき方の見直しを推進できます。当コラムでは、理想の働き方改革実現のポイントから、日常業務の効率化のご提案まで、人事労務のためのお役立ち情報をご紹介します。

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