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過労死ラインとは?従業員の健康を守るためにすべきこと

働き方残業削減

「過労死ライン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。過労死ラインとは、心身の健康に悪影響を及ぼす可能性が高まる時間外労働(残業)の時間の目安を指し、労災認定の基準となっています。
本記事では、過労死ラインの基準や、2021年に行われた法改正の内容のほか、企業が従業員の過労死を防ぐためにすべきことなどについて解説します。

1.過労死ラインは労災認定で使われる時間外労働の基準

過労死ラインとは、労災認定において、健康障害と労働との因果関係を判断するために設けられた、時間外労働(残業)の時間の基準です。

労災認定において、ケガや事故の場合は業務との因果関係が比較的わかりやすいです。しかし、脳や心臓疾患、精神障害などの場合は、加齢や生活環境、遺伝などの要因もあるため、明確に説明するのは簡単ではないでしょう。長時間労働が心身へ与える悪影響は医学的知見からも得られていますが、病気の原因が労働時間や環境だと認定されなければ、労働者は適切な補償を受けられません。

そこで、長時間労働による負荷を病気の原因として、労災認定のための基準として設けられたのが、いわゆる過労死ラインです。過労死ラインは、労働者を長時間労働から守るための基準でもあるのです。

長時間労働については、下記の記事もご覧ください。
長時間労働とは?基準・原因から対策について解説

2.そもそも過労死とは?

過労死とは、仕事の過労やストレスが原因で疾患を発症し、死亡に至ることです。過度な業務による心理的負荷で、精神障害を原因に自殺してしまった場合も過労死となります。
さらに、死亡に至らなくても、長時間労働や業務過多によって引き起こされた疾患も過労死等として認定されることがあり、法律では下記のように定義されています。

<過労死等の定義>

・業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡

・業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡

・死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

 

     ※過労死等防止対策推進法第2条

精神疾患の場合は、下記の基準を満たすことが要件とされています。

<精神疾患を過労死とする場合の基準>

・認定基準の対象となる精神障害を発病していること

・認定基準の対象となる精神障害の発病前概ね6ヵ月のあいだに、業務による強い心理的負荷が認められること

・業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

 

     ※厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」

2-1.過労死と認定される疾患

法律上の過労死とは、過労自殺を除くと、「業務における過重な負荷」を原因とする、脳血管疾患または心臓疾患、精神疾患と定められています。具体的には、下記が過労死と認められる疾患です。

<脳・心臓疾患>

・脳血管疾患:脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症

・心臓疾患:心筋梗塞、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤

<精神疾患>

・症状性を含む器質性精神障害

・精神作用物質使用による精神および行動の障害

・統合失調症型障害および妄想性障害

・気分(感情)障害

・神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害

・生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群

・成人のパーソナリティおよび行動の障害

・精神遅滞(知的障害)

・心理的発達の障害

・小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害

 

     ※厚生労働省「脳・心臓疾患の認定基準の改正について」

     ※厚生労働省「精神障害の労災認定」

長時間労働や業務過多などで疲労が蓄積し、適切な休息が取れていなければ、健康に深刻な影響を与える可能性が高まるでしょう。
企業は労働者の健康と安全を保護するため労働環境を整え、労働時間の適正化を図らなければなりません。

3.過労死ラインの基準

厚生労働省では、過労死ラインの時間的な基準を下記としています。

<過労死ライン>

・発症前1ヵ月間に100時間以上の時間外労働がある

・発症前2~6ヵ月間に月平均で80時間以上の時間外労働がある

 

     ※厚生労働省「過労死等防止に関する特設サイト」

一般的には、6ヵ月を平均して45時間を超える時間外労働(残業)が行われた場合、健康障害と業務との関連性が強まるとされ、長くなるにつれて因果関係はより強まっていくでしょう。
上記は労働基準法の36協定の残業時間の上限を超えており、労働契約法や安全衛生法違反でもあり、絶対に超えてはいけないラインです。

さらに、WHO(世界保健機関)やILO(国際労働機関)は、2021年に共同で発表した「WHO・ILOによる長時間労働による健康リスク・死亡の関係についての報告」の中で、「時間外労働が月65時間を超えると脳・心臓疾患のリスクが高まる」と報告しました。
これに比べると、現在の過労死ラインの基準は、依然として高いといえます。

時間外労働については、下記の記事もご覧ください。
時間外労働とは?定義、上限規制について解説

3-1.労働時間以外の過労死ライン

2021年、厚生労働省が設置した有識者検討会が、過労死の認定基準見直しについての報告書をまとめました。過労死ラインの時間の基準は変更されませんでしたが、それを超えなくても労災と認める場合があることや、基準に労働時間以外の負担要因を追加することを示しています。有識者検討会では、下記のようなことを過労死の負荷要因となるとして取り上げました。

<労働以外の負荷要因>

・勤務時間の不規則性

・事業場外における移動を伴う業務

・心理的負荷を伴う業務

・身体的負荷を伴う業務

・作業環境

 

     ※厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント」

企業は従業員の長時間労働を抑制するとともに、それ以外の負荷要因についても取り除く必要があるとされています。

4.企業が過労死を防ぐためにすべきこと

従業員が過労死ということになれば、企業は大切な従業員を失うだけでなく社会的な批判にもさらされるでしょう。過労死を防ぐためには、環境の整備やルールづくりが必要です。ここでは、過労死や過労による疾患を防ぐため、企業が行いたい取り組みをご紹介します。

4-1.労働時間の把握

長時間労働を防ぐためには、まず従業員の労働時間を把握しなければなりません。ここで重要なのは、勤怠管理ツールの打刻時間などでわかる勤務時間ではなく、実態としての稼働時間を把握すべきだということです。従業員の自己申告では、勤務時間を短く申告したり、退勤後に隠れ残業をしたりする場合があり、正確な稼働時間がわからない可能性があります。

企業は管理ツールなどを利用し、従業員の客観的な労働時間を把握するようにしましょう。長時間労働になっているようなら、業務負荷の軽減や効率化のために指導などを行う必要があります。

労働時間の把握については、下記の記事もご覧ください。
労働時間を把握するための客観的記録の方法とは?

4-2.勤務間インターバル制度の導入

勤務間インターバル制度とは、仕事が終わってから次の仕事を開始するまでに、一定の休憩時間(インターバル)を設ける制度です。例えば、インターバル時間を11時間と設定した場合、前日の仕事が午後11時に終わったとしたら、翌日は午前10時以降しか働いてはいけません。
勤務間インターバル制度は、従業員が休息時間をしっかり確保できるようにするための制度で、助成金が給付されるなど厚生労働省も推奨しています。

4-3.企業内外に相談できる機関を設置

企業内外に相談できる機関を設置することも、企業として取り組むべきことです。具体的には、産業医とのアクセスや企業内の相談窓口、ストレスチェックなどが挙げられるでしょう。従業員が適宜相談できることで負荷要因を減らし、企業は負荷を抱える従業員に適切な対処ができます。
なお、50人以上の従業員を抱える事業場は、毎年ストレスチェックを行う義務があります。

過労死ラインを守って従業員の健康を守ろう

現在、健康障害と労働の因果関係が判定できるとされる「過労死ライン」は、1ヵ月間に100時間以上の時間外労働、2~6ヵ月で月平均80時間を超える時間外労働とされています。
従業員の健康を守るためには過労死ラインに抵触するような長時間労働は避けなければなりません。企業として従業員の心身の健康を守るため、長時間労働の抑制と負荷要因を減らす取り組みは必須といえるでしょう。

監修:MITERAS部

「ホワイトなはたらき方を実現」する労務管理ツール【MITERAS仕事可視化】の担当者によるコラムです。MITERAS仕事可視化は、社員のPC利用の有無、アプリ使用状況などを可視化。勤怠データとPC稼働ログの突合で、法令遵守・はたらき方の見直しを推進できます。当コラムでは、理想の働き方改革実現のポイントから、日常業務の効率化のご提案まで、人事労務のためのお役立ち情報をご紹介します。

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