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[変化するRPAの活用]DXを進める第一歩として、RPAを活用する
──まずは、皆さんの業務と、RPAとの関わりについて伺いたいと思います。
田邊 UiPathは2005年にルーマニアで誕生した、RPAを中心とした自動化プラットフォームを開発するグローバルなソフトウェア企業です。日本法人は2017年に設立されました。金融機関や製造業、流通業、自治体など幅広い業種、業態のお客様にご利用いただいております。
御家瀬 我々は、パーソルP&Tのなかで、コンタクトセンターを統括している部署です。
主たる業務としては、法人のお客様に対して営業するアウトバウンドセールス業務と問い合わせを受けて回答をするインバウンドサポート業務となり、電話、メール、SMS、チャット、webなどの非対面チャネルを活用しています。
さらに、書類の校閲や審査、入力作業、そして採用にまつわる事務代行業務も行っていて、これらの業務にUiPathさんのRPAを活用しています。
中野 コンタクトセンター統括部には約1,500人が所属していて札幌、仙台、東京に分かれて業務を行っています。
そのうち、約80名がRPAを活用しており、さらに約20名がRPAの専門組織として、コンタクトセンターDX部に所属しています。
コンタクトセンターDX部では、社内外のRPAの保守運用や開発・構築、研修支援を行っています。
──ありがとうございます。世の中のRPAの活用状況については、どのように捉えられていますか。
御家瀬 我々もRPAを活用していて、とても便利なものだと実感しているのですが、世間ではRPAよりもAIに関心が高まっていますね。
田邊 確かに、テクノロジーの進化は速いため、RPAよりもAIに関するメディアの記事が増えてきています。しかし、AIは難易度が高く、活用するためには経験豊富な開発者に依頼しなければなりません。一方で、RPAは努力すれば自分で使えるようになります。とはいえ、プログラミングの要素もありますしRPAも実際には簡単ではないのは事実です。UiPathとしては誰もが簡単に使えるツールを目指して研究開発を続けており、お客様からは、昔よりも使いやすくなったというお声も多くいただいています。
御家瀬 昨今、DXが叫ばれていますが、私はRPAこそがDXの入口<デジタライゼーション>に適しているツールだと考えています。
田邊 DXを推進する際、最初から難しいAIに取り組むのでなく、簡単なRPAからスタートさせる。そして徐々に難しいことに着手していけばよい。DXの定義とされている、「製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織、企業文化、風土をも改革し、競争上の優位性を確立すること」のためには、現状を振り返ることや、なにを目指すのかなどを考えることが必要です。そのためには、通常の業務の枠を超えた新たなチャレンジをするための余力が重要になってきます。RPA活用による業務効率化の延長に余力が生まれ、既存の形からの変革が進められるのではと思います。
中野 田邊さんがおっしゃったことは非常に共感できる点が多くあります。
DX機運の高まりもあってか、業務フローの見直しをしたいというニーズは増えてきていると感じます。RPAを使いこなしている企業は現在どんな使い方をされているのでしょうか。
田邊 RPA単体の使い方だけでなく、RPAと音声認識を掛け合わせる、文字認識と掛け合わせるなど、RPAを用いた新しい活用方法を実践している企業は多くあります。AIや他のテクノロジーと組み合わせることによってRPAの能力が拡張される中で、次に重要となるのは、DXに向けた従業員のスキルアップです。テクノロジーと、それを活用する人間の両方を徐々に進化させなければなりません。
御家瀬 企業がDXを推進させるにはどうすれば良いとお考えですか?
田邊 2つのポイントが挙げられると思います。1つ目は、DXが上手くいく企業には新しいもの好きの従業員が多い、つまりアーリーアダプター層が一定数いるということです。その層が手を挙げる仕組みを作ったり、あるいはその層からDX担当を選抜し、トップが推進を後押ししたりしています。その層が組織の中で火付け役となり、燃え盛るように周りの組織に広がっていくなかで時には失敗も起こりえますが、そこである程度の失敗を許容することが重要です。失敗を許容する文化なしにはDXは上手く進みません。
2つ目は、人、RPA、AIそれぞれの得意な領域を見極めることだと思います。それぞれの異なる特性を持った労働力を業務毎にどう配分するかがキーになる。この考え方を持っておくとDXに強い会社になると思います。
御家瀬 私もDXを推進させるには、従業員に向かって「DXをやりたい人はいますか?」と言って手を挙げてもらうのが良い方法だと考えています。こちらから指名して、やってもらうということもあるとは思いますが、希望を取る方がスムーズにいきます。すると、「まさかこの人がプログラムを書けるようになるとは思わなかった」という発見もあります。そのようにしてプログラムが書ける従業員を増やせる会社がDXに向けてスムーズに取り組めるのだと思います。また、トップが「DXをやる」という強い意識も大切だと思います。
田邊 DXが上手くいかない企業では、現場が頑張ってもトップがDXを理解しておらず、承認や予算が下りずに失敗するケースがあります。逆にトップがやろうといっても現場が理解していなくて進まないこともあります。トップも現場もみんなで「やるんだ」と強い想いがある企業が上手くいくものです。
[パーソルP&TとUiPathの取り組み]自社活用と顧客サービスを両軸で推進していくパーソルP&Tの成功要素とは
──次に、パーソルP&TとUiPathさんとの取り組みを教えてください。
田邊 3年前にパーソルP&Tと我々UiPathとで、パーソルグループを対象にデジタルを活用して業務の生産性向上を実現する「Automation PJT(オートメーション プロジェクト)」*1がスタートしました。
そのなかで、コンタクトセンター統括部でも、現場の従業員が自分達の業務の生産性向上のためにRPAを活用することになりました。受託した業務にRPAを使うことで、従業員はRPA開発やRPAとの協業オペレーションを体感することができます。また、外販することも可能になると考えました。
御家瀬 我々は、お客様から委託された業務を行っていますが、もっと良いサービスを提供しよう、新たなチャレンジをしていこうという意識は、全ての従業員が持っています。そのためにも、少しでも生産性を向上し、新たなチャレンジへの余力を作ろうという考えがありました。
また、弊社ではデジタル化を推進し、人と組織の生産性を向上させることを中期経営計画の基本方針として掲げています。こうしたことからUiPathさんに協力してもらいながら進めることになりました。
──田邊さんは、様々なRPA活用を推進する企業を俯瞰して見られているかと思いますが、パーソルP&Tの取り組みをどのように見られていますか。
田邊 開発のプロがシステムを開発するのではなく、従業員が自分達でRPAを作ることを「シチズン開発」と呼びます。コンタクトセンター統括部はシチズン開発がかなり上手くいっているのだと思います。
パーソルP&T全体の推進のなかで、コンタクトセンター統括部は半分近くの成果を出していますよね。御家瀬さんに伺いたいのですが、その秘訣は何ですか?
御家瀬 お客様や仲間のために仕事の生産性を向上させたいという想いの強い従業員が多く、RPAでそれを叶えることができると感じたからだと思います。仙台のコンタクトセンターに行った際、スーパーバイザーを担当してくれている従業員から「私もRPAが使えるようになったので、業務に活かそうと思います」と直接声をかけてくれたことが印象深く残っています。
中野 はたらいている人たちの多くはRPAなど専門のツールを普段使っていない人たちです。「自分で構築して、業務に活かすことができる」と体感できたことがモチベーション向上に大きく寄与したと思います。また、「自分達の業務で手間がかかっていたことがRPAを作ることで解消された」という成功体験を積み重ねてくれたことも、上手く進んだ要因だと思います。
また、コンタクトセンターDX部を作ったことで、「RPAを極めると、そういった専門部署にいくことができる」「オペレータからデベロッパー(開発者)になれるキャリアプランも描けるようなった」という良い環境が生まれたことも理由ではないでしょうか。
田邊 パーソルP&TはRPAを楽しんで取り組んでいるという印象でした。雑な言い方をすると玩具のようにデジタルツールを使って楽しんでいる。できるかできないかは別にしてとりあえずやってみようというカルチャーがあり、そこにフィットしたのだと思います。
御家瀬 カルチャーにフィットした、というのはおっしゃる通りだと思います。
田邊 RPAやDXの導入では企業のカルチャーが重要です。制約が厳しくて自由が利かない企業もあります。ある程度の自由度があって何でもチャレンジできる。また、チャレンジをして失敗しても許されるというカルチャーがあることが成功の秘訣です。
御家瀬 確かに、弊社にはチャレンジ精神があります。コンタクトセンターDX部は、もともとあった部ではありません。もっとDXにチャレンジしていくために生まれた組織です。
中野 本来はデジタルに詳しく、リーダー的に引っ張ってくれる従業員がいて、その従業員を中心にみんなで勉強して作ったRPAを、社内で共有して知識の底上げを行いました。そして半期は「どれくらい効率化できたか」をトラッキングしました。そこから拡大してコンタクトセンターDX部が生まれました。もともとカルチャーがあったと同時に、みんなでカルチャーを作っていったということもあります。
田邊 パーソルP&Tは中期経営計画のなかで、デジタルを活用して「はたらいて、笑おう」の世界を実現する。そこに従業員も共感するから進んでいく。そこが他社との違いだと思います。
中野 当初は、DXに対する反発もありました。業務を効率化することで「自分達の仕事がなくなるのではないか」と危惧した従業員もいました。そこは私たちとしても注意して進めました。我々のコンタクトセンターを含めたBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)業界は成長している市場なので、業務が減ることはありませんし、全てがRPAに置き換わることはなく、より人がやるべき仕事に時間を使えるようになるための変化だと伝え続けました。
[RPA活用の次のフェーズ]After自動化の先にある、新たなチャレンジとは
──RPAを活用し、一定の成果を挙げている企業もあるかと思います。そういった企業が今後どのような方向に向かっていくべきかヒントとなるような、パーソルP&Tの新たなチャレンジを教えてください。
中野 参考になったら大変光栄ですが、チャレンジのひとつに、「インテリジェントオートメーションセンター(IAC)」の取り組みがあります。これは、お客様の案件に対応するなかで培ってきたRPAのノウハウを、お客様のRPA活用に還元する新たなチャレンジです。
IACでは、お客様から委託されたRPAのロボットを100台規模で一括保守しています。しかし、そのRPAにエラーが発生することもあります。今までならエラーが発生すると業務がストップしていましたが、RPAを使える我々の従業員がシナリオを改修することで、エラー発生率を90%減らすことができました。
我々としては保守工数を削減できますし、お客様としてもRPAがスムーズに動く。Win-Winのメリットがあります。
御家瀬 お客様は「新しいロボットを作りたい。エラーに対応して修正する時間がもったいない」と考えています。その課題に対して我々がサポートすることができます。それができるのも、UiPathさんには「UiPath Orchestrator(オーケストレーター)」という管理ツールがあり、クラウド上でいつでもどこでもRPAの状態を確認することができるからです。
田邊 いろんなロボットが増えてくると、その分、IACのメンバーたちの経験値も上がっていきます。さまざまなケースがアセット化され、ナレッジ化されることでエラーが削減されていきます。新しい業務になると、また新たなエラーに遭遇しますが、経験値が上がっているのでエラーの発生率は徐々に低くなっていきます。
その蓄積されたアセットやナレッジなどの経験値が外販時の武器になります。受け身のコンタクトセンターではなく、攻めのコンタクトセンターになります。今後は保守運用だけでなく、カスタマーサポート業務における自動化の設計まで請け負うこともできるのではと期待しています。
保守運用サービスを展開していただくことで、RPAを利用する企業は安定して活用することができ、RPAに対する満足度が高まります。パーソルP&Tには、RPAの案件を安心してお願いすることができるので、我々からお客様をご紹介することもあります。
御家瀬 その意味では、良い循環システムでUiPathさんと連携させていただいています。
田邊 RPA活用を推進していくと定めた3年計画がスタートして、今年で3年目です。ゴールに向かって歩んでいる、という実感はありますか?
御家瀬 RPA活用により自動化が進むことで更なる生産性向上を目指し、次のステップとしてAIとの連携を進めており、「AIコンタクトセンター」というコンセプトで形にしようとしています。例えば、自動でテキスト変換された電話応対内容やメール、SNSなどの応対内容、そしてFAQ検索で解決された結果などがCRMに自動登録される流れを作ります。そのデータをAIが整理して他の応対をしている人へ参考情報を提示するといったことをできるようにしようとしています。この構想を作るにあたり、田邊さんにもたくさんの助言をいただいています。
AIコンタクトセンターの構成図
中野 FAQを探すことは意外に時間がかかります。それが自動で表示されるようになるとオペレータにとって効率が上がりますし、お客様にとっても有益です。対応スピードが上がるだけでなく正確性も向上します。顧客対応がスムーズになることで、CS(顧客満足)にもES(従業員満足)にも繋がると考えています。
また、対象は音声だけでなく、オムニチャネルにも対応したいと考えています。多様な顧客行動に対してサポートの導線を用意する。お客様は好きなチャネルを選択し、スムーズに疑問を解消する。さらに、解消できた疑問をデータとして蓄積することで分析につなげていき、オペレータの支援とお客様へ高い品質のサービス提供ができる環境づくりを目指したいと考えています。
御家瀬 デジタル推進を始めて3年目の今この取り組みができることは、1年、2年と今まで積み重ねてきた成果だと思います。
今後はさらに、どの業務ならデジタル化できるのか、どの業務は人でなければならないのかといったところを見極める力が大事になると思います。
田邊 デジタル化に取り組むことで、業務上の課題が見えてくる。そこをRPAで改善することで効率化し、楽になる。それが体感としてあるから人に教えることができる。とてもいい流れになっていますね。
[今後の取り組み]コンタクトセンターが企業の変革を推進していく
──今後のテーマを教えてください。
御家瀬 今後は、外販の拡大がテーマになっていくと考えています。
中野 「AIコンタクトセンター」の実現に向けて少しずつパーツができつつあるところです。2023年には業務がどれだけ効率化され、また効果が生まれ、それによって作業が削減でき、従業員はさらに活躍できる仕事にシフトしてもらうことになっていくと思います。
お客様に対してコスト削減などのメリットをご提示できるようにもなるでしょう。検証してさらなる改良をしていくフェーズに入っていくと考えています。
御家瀬 お客様は品質を向上させながら運営コストを下げたいと考えられています。品質を向上しながらコストを下げるのは、人の力だけでは限界がありますが、業務プロセスを改善しながらRPAやAIなどの技術を組み合わせた仕組みを構築することで可能になると考えています。これができるようになると我々の武器となり、選ばれる存在になれると考えています。ただし、そこにたどり着くまでに試行錯誤も必要ですし、時間もかかると思いますが必ず成功させていきます。
──田邊さんからパーソルP&Tへどのような期待がありますか。
田邊 コンタクトセンター統括部が、日々のオペレーションを通じてRPAの経験が蓄積されることで、パーソルP&Tは5年後、日本で最強の会社になっているんじゃないかと思います(笑)。
御家瀬 ありがとうございます。なんだかハードルが上がってしまいましたね(笑)。
私も最強の会社にはなりたいと考えています。お客様に選ばれ続け、従業員に「ここで長くはたらきたい」とか「ここの仕事は面白い」と思ってもらい、仕事を探している新たな仲間に選ばれる、そんな存在を目指していきます。
中野 今では、企業と顧客・消費者の接点はコンタクトセンターが担うようになっています。企業が変革を進めるにあたって、消費者と接点があり、理解しているコンタクトセンターの重要性は今後、増していくと思います。
御家瀬 世の中のコンタクトセンターのイメージを変えていきたいと思っています。コンタクトセンターはクレーム対応ばかりするとか、アポイントメントコールのノルマがあるとか、仕事自体は簡単で単調なんじゃないかなど、誤った情報からネガティブなイメージを持っている方もいらっしゃいます。
しかし、実際には、”ありがとう” のお言葉をもらえることが多かったり、目標に到達した際の達成感を感じることができたりしますし、高い応用力、大量の知識、推理力、話す力、書く力などが要求されるレベルの高い仕事です。そしてDX化が進んでいる領域でもあります。弊社ではRPAやAIの導入が進み、RPAのプログラミング技術を身に着けてスキルアップする従業員が数多くいます。これらを世の中にアピールし、コンタクトセンターの本質を伝えていきたいと考えています。
このような想いを実現していくにも、引き続きUiPathさんと連携を強化させていただきたいです。今後ともよろしくお願いします。
田邊 もちろんです。今後ともよろしくお願いいたします。
*1…Automation PJTの詳細:https://touch.persol-group.co.jp/20211015_9919/
取材日 2022年7月11日
※所属・役職は取材当時のものです。