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TALK 06

生産性向上の鍵は、多くの時間を費やす会議にある。会議のデジタル化の取り組みから考える、DX推進の在るべき姿

旭化成株式会社

デジタル共創本部

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社

システムソリューション事業部 DXソリューション統括部

寺田 秋夫様 吉田 真也様

小浦 文勝 藤田 豊

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は今、多くの企業が掲げる経営課題となっています。DX推進の必要性を強く感じる一方で、「何から手をつけたらいいのかわからない」と頭を抱える担当者も多くいます。 そこで本記事では、DX先進企業として知られる旭化成株式会社(以下、旭化成)と、パーソルプロセス&テクノロジー(以下、パーソルP&T)でDXを推進するプロジェクトメンバーの対談をお届けします。 2年連続でDX銘柄に選定された旭化成は、DXをどのように捉え、推進してきたのでしょうか。はたらく個人のDXを推進し、生産性向上を実現するため「会議」に着目をした同社は、パーソルP&Tの先進技術をどのように活用したのでしょうか。 旭化成株式会社 デジタル共創本部で生産性向上の取り組みに従事する寺田 秋夫様(写真中央左)と吉田 真也様(写真中央右)、パーソルP&TにてDXソリューションを提供する小浦 文勝(写真左)、藤田 豊(写真右)に話を聞きました。(以下、敬称略)

DXは、あくまで手段。大切なのは「トランスフォーメーション(X)するためのデジタル(D)」という考え方

──DXへの関心が高まっていますが、何から手をつけたらいいかわからないと頭を抱える担当者も多くいます。DX先進企業として知られ、様々な取り組みを実施している旭化成様ではDXをどう捉え、どのように推進してこられたのでしょうか。

 

寺田:DX、デジタルトランスフォーメーションという難解な言葉の響きだけが一人歩きしている印象を受けますが、はじめに考えるべきは「自分たちがどうなりたいのか」というゴールです。ゴールイメージさえ描けていれば、そのためにどんなデジタルの技術を使うかという方法論になり、話はシンプルです。

 

事業という土台を磨いてこそ会社は成長します。そのための手段のデジタルですから、DXは目的ではなく手段に過ぎません。あくまで「X(トランスフォーメーション:変革)するためのD(デジタル)」というわけです。何を変革し、どうなりたいのか。ゴールを最初に設定する必要があります。

 

旭化成ではこのような考えのもと、デジタルを活用して事業をステージアップすべく、2021年にデジタル共創本部という部署を新設しました。DXを推進するための部署と位置付けられていますが、実はこのかなり前から、現場のデジタル活用は始まっていました。しかし分社経営をしていた時代の名残から、事業部ごとにシステムが分断しており個別最適に陥っているという課題意識がありました。

 

多様な事業を展開していることにより蛸壺になっているのではないか。しかし多様な事業部が持つ様々なデータを横に繋げることができれば、旭化成にしかない競合優位性を築けるのではないかと考えました。データを繋げて活用し、データを活用できる人材を育成する。事業を高度化・変革する会社全体のDXと、はたらく個人のDXを推進する基盤の強化。この両輪をうまく回すことでステージアップし、DXという言葉が忘れ去られた時にデジタルでも競争力のある会社になっていると考えています。

 

 

DXのその先にあるのはあたらしい価値の創造と生産性の向上

──SIerとしてパーソルP&Tが考えるDXとはどのような世界なのでしょうか

 

小浦:私たちもDXは手段だと思っています。私たちが考えるDXとは、DXの先にお客様が新しい価値を創造できることと、生産性の向上ができていることだと考えています。
 

私たちがご支援しているのは、主にバックオフィスとビジネスサイドのDXです。バックオフィスでは、クラウドに移行してくことでサーバーの維持管理にかかる労力を減らし、情報システム部門が受け身から攻めの仕事ができる状態にしていくことだったり、デジタルな仕事をしていない人たちが、自分の業務をプログラミングするなど開発者としてキャリアシフトをしていくことで、新しい仕事の価値を創造していくことを支援しています。

 

ビジネスサイドでは、重要資産であるビックデータの可視化や活用に加え、AIの解析を取り入れ、他社との差別化を図ることや、データにすばやくアクセスできるなどビジネスサイドのはたらく人のリモートワークを支援し、安全に仕事ができる状態としてデジタルワークスペースへの移行支援なども行い、DXの加速をサポートしています。

 

 

人とデジタルの協働が生産性向上に繋がる


──旭化成さんのDX推進には事業を高度化・変革する会社全体のDXと、はたらく個人のDX の2本の柱があるとお伺いしましたが、後者のDXに焦点をあて、基盤の強化や従業員の生産性向上を目的に取り組まれたのが、今回パーソルP&Tと協業した取り組みですね。

 

吉田:従業員の生産性向上、働き方改革というテーマは、5年ほど前から弊社の経営課題の一つとなっています。日本における労働人口の減少が続く中、旭化成はグローバルに事業成長し続けており、これまで以上に多様な業務を効率良く行っていくことが求められています。そうなると、従業員一人ひとりの労働生産性を上げることが何よりも重要となります。

 

生産性向上を考える際に欠かせないのがデジタルであり、ソフトウェアです。従来の考え方では、人はビジネスプロセスの担い手であり、パフォーマンスにムラがないという前提で業務フローが設計され、システム化が行われてきたと思います。しかし、実際、人はさまざまな影響を受けて、パフォーマンスが上がったり下がったりするわけです。

 

常に一定レベル以上のパフォーマンスを担保するため、テクノロジーでサポートできることがあるのではないか。特に昨今では推論や認識など、人工知能をはじめとするテクノロジーの進化によってできる領域が広がってきています。いかにして人とソフトウェアが協働し、ビジネスプロセスを回していくことができるか。そのための施策を検討し、従業員体験を進化させ、生産性の向上を図りたいと考えていました。

 

 

会議のデジタル化(変革)が、生産性向上に大きく寄与するという仮説

──生産性向上のために人とデジタル・ソフトウェアの協働を模索したい。そのような考えで目をつけたのが「会議」だったのですね。

 

吉田:そうです。我々はまず、生産性向上の実現に向けて「はたらくこと」に対する従業員体験を変えることが重要ではないかと考えました。そのためには、人の行動を変える、人の知識を拡張し能力を高める、セルフマネジメントによって人の良い状態を維持する、という3つの観点が必要となります。例えば、多くの従業員の行動を変える、能力を高めるには、より共通性の高い業務の効率を上げて、重点領域に注力する時間を捻出することが求められます。そこで目をつけたのが会議でした。

 

ある拠点の会議室の利用実態について過去に調査したところ、年間数万時間に上ることが分かりました。1回の会議には複数のメンバーが参加しており、拠点も点在していることを考慮すると、旭化成全社で、膨大な時間を会議に費やしていることになります。さらに会議の前には日程調整やアジェンダを作成したり、会議の後には議事録を作成するなど前後も含めると多くの時間を使っています。ここにプロセスとして無駄が発生しているのではないか、テクノロジーよって効率化を図る余地があるのではないかと考えました。

 

そして会議に目をつけた背景にもう一つ重要な観点がありました。それは会議で生み出されるデータが膨大だということです。会議当日に使われるプレゼン資料はもちろん、中で会話される内容に実は有効な資産が眠っているのではないか。これをデータとして蓄積し、部門間でうまく共有する仕組みを作れないかという考えもありました。
 

こういった考えを実際のシステムに落とし込むには、先進デジタル技術と既存の情報技術を上手く組合せることが必要です。そこでパーソルP&Tさんに技術トライアルのフェーズを共に進めていただけないかと相談し、会議のデジタル化におけるPoCがスタートしました。

 

 

DX先進企業の旭化成と、技術者集団パーソルP&T。
両社の化学反応が有益なPoCに繋がる


──旭化成様からの要望を、パーソルP&Tはどのように受け止めていたのでしょうか。

 

小浦:私と藤田の所属するシステムソリューション事業部は、「テクノロジーを通じてお客様に新しいはたらき方を提案し、やりがいのある仕事の機会を提供する」ことを目指しています。

 

こうしたバックグラウンドがあったため旭化成様に相談いただいた内容は、以前から社内でも議論をしていたテーマでした。生産性向上のために社内データを利活用する。そのための素材はMicrosoft Teamsのコミュニケーション情報やOutlookの予定など、データを活用するためのAPIが用意されています。ですから、これらを使わない手はないと考えていました。しかしこういった素材となるデータは、何をどう活用すればいいのか。それによって何が見えてくるのか。全てはイマジネーションの世界ですから、我々も試行錯誤をしていました。

 

そんなタイミングでお声がけいただいたので、旭化成様の実現したい世界観や課題感に強く共感し、PoCがスタートしました。

 

藤田:実際のPoCは、会議というものをどう分析し、効率化を図ればいいのか。またそのためにどのような技術を活用し、アウトプットをすればいいのか。本当に手探りからのスタートでした。

 

我々は、自分たちが得意とする新しい技術を持ち寄り、旭化成様はそれをどう実際の業務に落とし込み、現場で活用するのかを検討する。企画・設計段階から共に知恵を出し合いながら進めたPoCでした。このプロセスは両社の化学反応を感じる、非常にワクワクするものでした。

 

 

先端技術で会議の効率化を図る。
PoCで得られた確かな手応え

──PoCでは、どのような技術トライアルを行ったのでしょうか?

 

吉田:会議の前から後まで一連のプロセスを洗い出し、技術を活用することでどこまで効率化が測れるか、それらから生み出されるデータを有効活用できないかを検証しました。

 

例えば会議前に行う日程調整では、参加者と会議室の空き時間を自動で提案し、日程調整にかかる作業時間を効率化しました。会議中は誰がどれだけ話しているのかを測定、見える化し、発言の少ない人にファシリテーターが意見を求めることで会議の活性化に繋げました。また、話す速度や声の大きさを測定し、会議参加者が聞きやすい状態になっているか、一目で識別できるように可視化しました。その結果、発話者がそれらを意識し、適宜、改善することで、聞き手の理解を深めることが可能となりました。

 

一連の取り組みを通して非常に有益な示唆を得ることができましたので、次のステップとして2022年4月から業務適用を意識したシステムの企画・開発を進めています。2023年4月以降に社内ユーザーと業務試行を行い、その後、全社展開を目指して取り組みを推進していく予定です。

 

 

──第一弾となる今回のPoCを受けて、旭化成様の社内からはどのような反応がありましたか。

 

吉田:本取り組みについて、社内で発表する機会が何度かあったのですが、非常にいい手応えを感じています。生産性向上は重要な経営課題の一つであり、膨大な時間を費やしている会議に大きな改善のチャンスが眠っている。この共通認識のもと、役員をはじめとする会社の上層部から前向きな意見を多くもらいました。またプロジェクトに参画していないユーザー部門からも、我々の発表を聞いて業務試行に参加させて欲しいと複数の手が挙がっています。ここから数十名規模の業務試行を実施する見通しが立っており、現場への実装に向けた動きがスタートしています。

 

 

両社の強みを還元し合い、次のフェーズを目指す

──非常にいい兆しが生まれている様子が伝わってきます。本取り組みを通じて、旭化成様がパーソルP&Tへの想いを聞かせてください。

 

吉田:膨大な時間を費やしている会議のデジタル化を推進することが、生産性向上に大きく寄与するのではないかという仮説をもってパーソルP&TさんとのPoCに取り組んできました。

 

冒頭で寺田の話にもありましたが、DX推進において大切なのは「何を実現したいのか」目的を明確にすることと考えます。昨今、SaaS系のツールサービスが増え、手軽に利用できることは非常に良い傾向と捉えています。しかし、サービスありきで「ツール導入」という手段に走ってしまい、実際に、それがどこまで本来の目的に寄与しているかの検証が十分に行われず、使われなくなることも多いように思います。仮にツールを使って実現イメージを具体化していくところから入ったとしても、最終的には目的からシステムの実装までがきちんと紐づいている必要があります。

 

その点でパーソルP&Tさんは当初から、弊社の持つ課題感に強く共感してくださっていました。そして圧倒的な技術力を持っておられます。だからこそ単なる契約関係ではなく、パートナーとして本音をお話しながら、共に取り組んできました。

 

 

──パーソルP&Tの想いも聞かせてください。

 

藤田:今回の取り組みでは、課題を解決するための様々な技術を駆使し、私たちとしてもチャレンジをさせていただきました。

今後は会議という場に集まっている膨大で多種多様なデータをいかに蓄積、分析し、利活用するか。場合によっては音声解析をしたり、データサイエンスの領域にまで踏み込んだ技術開発を行っていきたいですね。今後も上がってくる課題を新しいテクノロジーで解決し、システムをより発展させるべく多くの企業様へもご支援していきたいと思っています。

 


※Microsoft Teams、Outlook は、米国 Microsoft Corporation の、米国およびその他の国における登録商標または商標です。

 

寺田 秋夫氏

旭化成株式会社
上席理事 デジタル共創本部 IT統括部長
1988年、旭化成に入社し、人事からキャリアをスタートする。
その後、半導体関連の新規事業開発や電子材料の企画に従事。経営企画、総務を経て現職。

 

吉田 真也氏

旭化成株式会社
デジタル共創本部 IT統括部 先進IT探索グループ グループ長
コンサルティングファーム、電機メーカーを経て2012年に旭化成に入社。
以来、一貫して社内ITの企画・統括を担当。2019年から現職。

 

小浦 文勝
パーソル プロセス&テクノロジー株式会社
システムソリューション事業部 DXソリューション統括部 統括部長
2006年に入社しIT人材の派遣営業、SI営業を経て2012年にエンジニア部門のマネジメント職にキャリアチェンジ。
以来、インフラ系の技術支援からDX推進と技術支援のポートフォリオを拡大しながら現在に至る。

 

藤田 豊

パーソル プロセス&テクノロジー株式会社
システムソリューション事業部 DXソリューション統括部New ITソリューション部 マネージャー
2007年に入社し、システム部門でインフラ構築を担当。
以来、エンジニア、プロジェクトマネージャーとして社内外のシステム開発を担当している。

 

取材日:2023年2月9日
※所属・役職は取材当時のものです。

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