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企業と複業③

公開

複業促進アドバイザーの成瀬 岳人です。

前回のコラム「企業と複業②」では、企業が複業に取り組まざるを得ない3つの社会的必要性を解説しました。今回は、複業が企業にとって新たな人事戦略になるステップついて説明します。文中に、「副業」と「複業」が混在しますが、意図的に書き分けていますのでご容赦ください。

企業・個人の多くのケースそして自分自身の経験から、企業が複業促進を実践し、その先にある活用フェーズに至るには以下のようなステップがあります。

■STEP1 副業解禁

2020年~2021年にかけて、STEP1・副業解禁に進める、もしくは検討を開始する企業が増えました。理由は様々ですが、概ね以下の理由に大別されます。

・副業希望者(既に開始している社員も含め)が増えている
・働き方改革の一環
・社外経験によるイノベーション促進

いずれの理由の場合も、ほとんどがSTEP1の「副業制度の策定」にとどまります。

■「複業」への転換

言葉の使い方の問題ですので、「副業」のまま意味するところは「複業」である、というケースもあるでしょう。テレワークなのか、リモートワークなのか、でもよくありましたが、ここでは「副業」と「複業」を使い分けます。複業の定義は、『自律的なキャリア構築を目的に、本業も含めて複数の仕事や活動に取り組むこと』です。企業が戦略的に取り組む際に、この意味合いの「複業」になっているかどうかは極めて重要と考えています。なぜなら、取り組む社員がどう認識しているかに大きく影響するからです。使う言葉だけを単に「複業」としただけでは叶わないでしょう。戦略的な人事施策として、企業として本業以外の経験を積むことを推奨したいと明言し、その活動全般を「複業」と呼称する。ということを伝え続けなければ、浸透しないでしょう。上図で書いた定義の転換とは、言葉だけを変えるものではなく、経営から現場に至るまで、その用語の意味するところを理解しているかどうか、ということです。これができていない状態で、複業促進しても人によって定義が異なるわけですから、狙った効果は得られません。乱暴な言い方をすれば、「お小遣い稼ぎのための副業をやっています」の状態では、ここから先には進めません。

■STEP2 複業促進

ある目的のために、戦略的な人事施策として本業以外の経験を積むことを推奨する。この目的と定義に応じて社員が複業活動に取り組み始めた時、自分自身のためだけでなく、本業のため、組織のために複業活動をし始めます。誤解してほしくないのは、「本業のため、会社のために複業しなさい」という必要はない、ということです。仕掛けは必要になりますが、ここまで進められていれば、そんな事をわざわざ言わなくとも複業活動で得た経験値やキャリア資産は本業で勝手に活かされるようになります。人によって効果が表れる時間軸は異なるかもしれませんが、経験したことを目の前の仕事で活かしたいと考えるのは当然のことです。この時に、「情報漏洩が・・・」とか「競合避止が・・・」という話が出るのですが、これはSTEP1で解決しておくべき副業者のリテラシーの問題ですので、この段階で議論に上がっているのは取り組む順序が間違っている、とも考えられます。

■STEP3 複業活用

STEP3まで進むには、前提条件として複業実践者が増えていることが必要です。「複業(副業)人材を活用したい」という企業も増えてきていますが、本質的に複業人材を活用できるのは、複業経験者であると考えています。自らも複業を経験しているからこそ、どの場面でどういう複業者にどのように活躍してもらえればいいかを考えることができ、人選・調達・マネジメントなど、あらゆる場面で機能するのです。自分たちが複業を実践していないのに、複業者を活用する、というのはごく一部のリテラシーと経験値が高い複業者であれば、リードもしていただけると思いますが、そのようなプレイヤーはごく一部です。フェアに複業人材を活かすのであれば、自らも複業を経験し、勘所を養う必要があります。ここまで来ると、従来の人材戦略(社員、契約社員、派遣社員、業務委託、パート・アルバイト)とは異なる「複業人材」という選択肢が増え、社外の経験値を事業活動に活かすことができるようになります。

これが実現した時に、企業が得られる最大のメリットは、「自己変革力の向上」です。変化の激しい時代において、情報収集にしても、意思決定にしても、各種施策の実行にしても、様々な知見が求められています。そして、この流れは加速することはあっても停滞することはないでしょう。加速し続ける変化に適応していくためには、ひとつの組織の枠の中だけで培われる経験値だけでは不十分です。そのために、組織の枠を越えて、様々な経験を随時取り込んでいく経営環境をつくっていく必要があります。「複業活用」は、そのためのひとつの重要な人事的戦略施策です。

(文/成瀬岳人)

<執筆者プロフィール>
成瀬 岳人
パーソルプロセス&テクノロジー株式会社
ワークスイッチ事業部 事業開発統括部 部長
事業構想士(MPD)/総務省委嘱テレワークマネージャー

<略歴>
業務コンサルタントとして複数プロジェクトに従事した後、ワークスタイル・コンサルティングサービスを立ち上げ、複数社の労働時間改善やテレワーク導入を支援。
また、国や自治体のテレワーク普及推進事業の企画・運営責任を担う。2020年4月より、新規事業開発部門の責任者に着任。企業向けの複業促進事業の立ち上げを指揮。
2017年より、複業で総務省テレワークマネージャーとしても活動。
著書に『組織力を高める テレワーク時代の新マネジメント』(日経BP)

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